Ⅲ 王の子 -27
「あなたは……」
しかし后はアランを無視して、ジョゼと呼んだ女に話しかけた。
「わたしが裏切ったかと思ったのか?だから、殺すように命じたのか?」
訊いていることとは裏腹に、そのまなざしは温かった。憐れみを伴った切ない温かさ。
今度はアランが口を挟む。
「夜の君、貴方がこの方と一緒に、わたしのことを殺そうとしていたのですか。だから護衛を外で待たせ、コルと二人だけで来させた」
「ランもお前の味方だろう?」
夜の君がこともなげに言った。
「いえ」
答えたのは、蘭だった。
アランとコルがぎょっとする。
「いえ、そうではなくて、お后様がアラン様を殺そうとしたのではないということです」
蘭には確信があった。
「恐らく、殺させないように、尽力なさったのです」
蘭は続ける。
「先日の晩餐会の時も、スープに毒が入っているかもしれないと意識させ、あまり飲まないように仕向けた。今回は、直前にわたしにどうやって襲われるか教えて、阻止させようとした」
アランが信じられないような顔をして、后を見た。
「では、なぜ……」
「やはりお義母さまは裏切っていたのね!」
アランの言葉を遮って、ジョゼが叫ぶように言った。
「わたしのこと、可哀そうだ、と言ってくださったのに!一緒に泣いてくれたのに!あの子が憎いと言ってくれたのに!」
そう言って、アランの顔の真ん中に向けて、人差し指を突き立てた。
「ラン」
アランが冷静な声で、蘭を止めた。蘭は怒りで真っ白になり、ジョゼにとびかかりそうになっていた。信が蘭を押しとどめ、優しく抱きしめる。
「蘭、落ち着いて」
信の声を聞いて、蘭は落ち着いた。
「アウローラ、ジョゼが誰か分かっておるか?」
激高した蘭が落ち着いたのを見て、后がアランに尋ねた。
「はい。兄上の正妃……だった方です」
后は頷いた。
「そうだな、あの子はもう死んだから、あの子の正妃だったジョゼは、皇子皇女も産めなかったため、もう正妃でも何でもない。だった女だ」
「……」
「じゃあ、何だ?」
后の目が燃え上がる悲しみと憎しみに、染め上げられていった。
「ジョゼは、わたしの息子シルワが悲しみで正気を失い、やせ細っていくのを日々見続けてきた。何とか正気に戻そうと、いろいろやってみても、その甲斐むなしく、シルワは狂い死んでしまった。そうして夫が目の前で死んだとき、ジョゼは何者でもない虚のようなものになってしまった。もう、憎むことでしか、正気が保てなかった」
そうして、アランを見る。その目は純粋な憎しみが映っていた。
「お前がせめて金色の髪ではなかったらな。太陽王の印がなかったら、よかったのに」
そうであったら、真実はどうあれ、シルワも周りの者も、生まれてきた子が兄王の子だと思い込むことができた。忘れ形見の子がいれば、愛する妃を失っても、正気までは失くさなかったかもしれない。命を絶つことまではなかったかもしれない。
「では、なぜ邪魔をしたの」
絞り出すような怨嗟の声が、ジョゼの口から洩れた。側に寄り添っている娘が、ジョゼを必死で引き留めていた。
后は不意に遠くを見つめた。どうしようもない、というあきらめに似た表情だった。
「それでも、次代の太陽王を殺すわけにはいかないんだよ」
太陽神は冒すべからず神聖な神。その息子もまた然り。
アランは今どんな顔をしているだろう。信の腕の中からは、アランの顔を窺うことはできなかった。




