Ⅲ 王の子 -26
「コル!右!」
叫ぶと、蘭も后を残し、アランの元へ走る。シュッと音がして、弓矢が放たれる。コルがアランに覆いかぶさり、右肩に矢を受けるのが見えた。
スリットの隙間に手を入れ、腿にとめてあった短剣を抜き取り、木立の隙間に見えた射手に向かって投げる。命中。バサバサと派手な音がして、木立から男が落ちた。
違う方向から、四人の男が姿を現す。荒れた雰囲気の男たちだ。口はニヤニヤ笑いを浮かべ、目は血走っている。剣を振ってアランとコルを取り囲む。コルは肩に付き立った矢を折ると、腰に差していた剣を抜いた。アランも立ち上がり、剣を抜く。アランも使えることは、神殿の町で知っている。
蘭は短剣で落とした男の元に行った。男は白目を剥いて、気を失っている。短剣を腿に戻し、散らばった矢と弓を調べる。使えそうだ。
するすると先ほど男がいた木に登った。アランとコルが四人の男と戦っている。優勢のようだ。男の一人は脛を切られ立てなくなっていたし、残りも及び腰になっている。このまま何もなければ、勝てるだろう。
何もなければ、と辺りを見回して、反対側の岸の木の上に男を見つけた。アランを狙っている。ここから届くか?考える間もなく、とにかく弓を引き絞り、男に照準を定める。
止まっているのだから、当たるでしょ!
矢はうねる音をたてて、男の元へ飛んでいった。
ジュバッ
離れているのに、急所を射抜いた感覚があった。のどに矢を突き立てて、落ちていくのが見えた。すうっと指先から冷えていく感じがしたが、無理に考えないように押し込めた。
アランとコルは四人を打倒したようだ。ほっとして、木から降りるとき、后の横に灰色の男がいるのが見えて、ぞっとした。
ずっと、二人で見ていたのか?見守っていたのか?
その時、男の手の先に、光るものを見た。考える間もなく、后に駆け寄るのと、男が剣を振り下ろそうとするのが同時だった。蘭は夢中で短剣で受けた。
キーンという金属音が鳴る。ビリビリと蘭の腕に衝撃が走った。男はそのまま押し込もうとする。まともにぶつかれば、男の方が力がある。それに短剣では勝負にならない。
后もろとも切られる、と思った時、押してくる力が弱まった。押し返し、見ると、男は血を吹いて崩れていった。
「信」
崩れ落ちた男の後ろには、従者の白い服を返り血で真っ赤に染めた信が、左手に剣を下げて立っていた。
「あ、バレちゃった」
信はニッコリとほほ笑んだ。あの怖いほほ笑ではない。優しい信だ。蘭はほっとして、張り詰めていたものが切れそうになるのを、かろうじてこらえた。
針森の人間は目がいい。そして、おそらく勘もいい。灰色の男の更に後ろに、二人の人間が潜んでいることに、蘭は気が付いていた。
ただし、女だ。一人は娘と言っていいほど若い。二人とも戦う雰囲気は全くなかった。
ただ、女の方からは淀んだ気が発散されていた。
蘭の目線に気づいて、后が声をかけた。
「もう、終わったよ。ジョゼ、出てきなさい」
こちらに走り寄ってきていたアランは、茂みから出てきた女を見て目を丸くした。




