Ⅲ 王の子 -25
「護衛はここで待っておれ。ぞろぞろ来られたら、ゆっくり楽しめん」
アランと従者、后と蘭が馬車から降り、一行が庭園に入ろうとした時、后が急に言い出した。兵隊長であるコルが慌てて、止める。
「とんでもありません。もちろん、桂妃庭は王族直轄の庭。危ないことなどないのでしょうが、万が一ということもあります。お二方とも尊いお方、もし何かございましたら」
「お前たちの首が飛ぶものな」
后が意地悪く言った。コルが黙る。后は愉快そうに笑った。
「しかし、わたしの命に背いたということで、今すぐ首が飛ぶかもしれんぞ」
冗談めかして言うが、夜の君がいうと、不気味ではあった。アランが不快そうに口を挟んだ。
「戯言を言わないでください」
「まぁ、そう怖い顔をするな」
后は前触れなく、蘭の腕を掴んだ。
「では、アウローラの護衛にコルニクス、わたしの護衛にランでどうだ。四人で行こう。お前たちだったら、万が一の時、わたしたち二人くらい護れるだろう?」
コルは逡巡した。確かに事情を知らない護衛が何人いても、状況は変わらない。しかし……
「分かりました。四人で行きましょう」
コルが答える前に、アランはあっさりと言った。
庭園の中は秋の色彩が見事だった。山の木々が燃えるような赤、黄、橙の色に彩られ、園内を流れる小川にもひらひらと葉が舞い落ちて、それらがてんで流れていった。そこここで可憐に咲く秋の花々が、温かみと切なさを演出していた。
色彩の洪水だ、色に押しつぶされそうに感じながら、蘭たちは歩を進めていった。
「いい時期だな」
后がポツリと言った。
「そうですね。美しい」
アランも感嘆したように、答えた。アランはこの庭園を訪れるのは初めてだ。庭園の風流を解するにはまだ若く、興味がなかったからだ。しかし実際来てみると、これはこれでなかなか良いと感じていた。
「だが、造られた美しさじゃ」
「え?」
アランは聞き間違えたのかと思った。だが、后はなおも続ける。
「自然なふりをした造り物の美しさ」
「……」
「醜悪だな」
アランは答えずに后の半歩後をついて行った。どう答えればよいのか分からなかった。
「アウローラ」
「はい」
「少し足が痛い。靴の様子を見させるから、先に進んでくれ」
小川のほとりにちょうど腰掛られるほどの岩があり、后はその岩の方に少し足を引きずれながら進んでいった。慌てて、蘭が手を貸す。
アランはどうしたものかと思いながら
「待っていますよ」
と言ってみた。
「女が靴を脱ぐところを、見たいのか? 早く行け」
すげなく、后に却下される。アランは仕方なく、ゆっくり先に進んだ。道の先には小川にかかる小さな橋が見える。辺りは静かで、ちょろちょろと水が流れる音だけが聞こえる。あたたかな日差しが柔らかく包んでくれる。
后を支えていた蘭に、后がそっと囁いた。
「あの橋に踏み込んだ時が合図だ」
蘭が体の向きを変えようとしたのを感づいたのか、后は腕を少し引いた。
「まだだ」
ゆっくり進んでいるアランたちが、橋まであと十歩くらいだ。
「ギリギリまで気付かせるな。敵にばれる」
あと5歩。
「この先は一本道だ。逃げ場がない」
アランの足が、橋にかかった。蘭は振り返り、右前方の木立が光るのを見た。




