Ⅲ 王の子 -23
「お前が、シンか。会うのは初めてだな」
アランはゆったりとした肘掛椅子に座って、目の前に控えている信を見た。
あの日から一週間ほど、アランは熱が続き、熱が下がっても、なかなか起き上がることができなかった。
コルはその間、ずっとアランにつきっきりだった。アランが伏せているのを隠しておきたいのも理由のひとつであるが、アランが他の者を寄せ付けなかったということもある。その間、警備兵の方は、信が伝言役として、四子宮と兵舎を行ったり来たりしていた。コルがアランの用事で四子宮に詰めることは、珍しいことではなかったので、兵士たちは誰も不審に思わなかった。
寝台から出ることができるようになったのは、三日前だ。気が付けばあの日から二週間が過ぎていた。
「面倒をかけたな」
アランが信をねぎらうと、信は「いえ」と短く答えた。余計なおしゃべりはしないたちらしい。しかし、アランはコルからいろいろ聞いている。少しつつきたくなった。
「ランと同郷らしいな」
「はい」
「ランのそばにいたいから、兵士にしてくれと言ったとか」
「はい」
「結婚するのか?」
初めて、信が表情を動かした。イラっとした顔だ。
「何の話でしょうか?」
信がアランを見た。直視は不敬に当たるが、針森の者は構わないらしい。
「わたしは例の事件の話をしに来たと思いましたが」
アランは苦笑した。
「結婚するのであったなら、ランをこちらに引き込んで悪かったなと思っただけだ」
信はそれを聞いて、短くため息をついた。
「わたしは蘭を愛していますが、蘭がわたしを一番愛しているわけではありません。一方通行ですよ」
でも……と続ける。
「蘭をそちらに引き込んだことに関しては、せいぜい悪いと思っていただきたい」
コルが後ろでふきだした。アランが呆れたように言う。
「こいつ、口が悪いな」
コルが笑いながら応える。
「でも、こういうの好きでしょ、アラン様」
アランはにやっと笑った。
「戯言はともかく、本題に入らせていただきます」
信は二人の相手をせず、強引に本題に入った。
こいつ、新人のくせに、とコルが面白そうに言う。
「おそらく、近日中に、お后様より、桂妃庭に誘われます」
桂妃庭は何代か前の太陽王が寵妃桂妃の為に作らせた庭である。紅葉の時期が特に美しく、王族が行幸する庭園だ。
「ほう」
アランが体を起こす。
「お后様付きの女官が申しておりました。毎年、お后様がこの時期に桂妃庭にお出かけになるそうです。今年は、王太子もお誘いしようかとおっしゃったそうです」
お后付きの女官と聞いて、アランもコルもピクリと反応する。信はため息をついて先回りした。
「もちろん、蘭ではありません。蘭に近い女官も、念のため避けました」
軽蔑したようにコルを見る。
「確か、蘭に気づかれるなというのが、ご命令だったと思いますが」
コルは一言「そうだな」と言った。
最近、放っておかれている状態の蘭を思い出して、コルは咳払いした。信はちらりとアランを見て、続けた。
「それとは別に、例の下働きの娘ですが、やはりお后様の領地の娘で、しかもお后様の口利きで後宮の下働きに入ったそうです」
信は一度言葉を切った。しかし変わらぬ調子で続ける。
「その娘が、桂妃庭の庭師の館に出入りしたらしいです」




