Ⅲ 王の子 -22
いつからちゃんと笑っていないだろう。
あの人に嫁いだ時は、本当は嬉しかった。だが、手放しで喜んでいけば、甘く見られてしまいますよ、とだれかに忠告された。そもそも、あちらはあなたのお父上の心がほしいのですから、と。
だから、せいぜい澄ましていた。あの人が迎えてくれた時も、本当は舞い上がっていたのだけど、余裕があるように見えるように、自分を抑えた。
それが良かったのか、あの人はわたしに対し礼儀正しく、夜も決められた日をきちんと守って、途切れることなく訪れてくれた。優しく扱ってくれたし、気を配ってくれた。
だが、なかなか子供を授からなかった。
あの人の不在が多くなったのはいつからだろう。私の元を訪れる間隔もだんだんあいていき、待つ時間が多くなった。でも、決して途絶えることはなかった。待っていれば、いつかは必ず来てくれた。
どこかで反乱がおき、あの人が鎮圧しなければならなくなった。長い間館を空けるが、仕事なので仕方がない。
あの人と入れ替わるように、あの女が来た。
下々の出らしいその女は、館に来た日にわたしのところに挨拶に来た。まだ正式な側室でもないのに、馴れ馴れしくこう言った。
「殿下の為に誠心誠意お仕えします。よろしくご指導くださいませ」
あの人が無事に帰って来た。喜びもつかの間、正式に側室になったあの女が、子を宿したという。あの人の子を。
そうして、女は金色の子を産み、死んでいった。
あの人は悲しみ、怒り、傷つき、どんどん生気が吸い取られていくかのように、痩せこけていった。きっとあの女が、あの世に引っ張っていこうとしているのだろう。わたしは誠心誠意、あの人を慰め、こちらに引き戻そうとしたが、あの人は何も応えてくれなかった。やがてすべての生気を吸い取られ、あの人は砕けてしまった。
残ったのは空っぽになったわたしだけ。
あの人を壊したのは、あの子。




