Ⅲ 王の子 -14
「アラン様」
ノックの音が聞こえるか聞こえないかの間も空けず、すぐに扉が開いた。こんな無礼なことをする者は一人しかいない。
部屋に滑り込んできたのはコルだった。王太子の身の回りの世話をする侍従でさえ、アランが呼ばないとやってこない。
寝巻を汗で張り付かせ、引きつった顔で無防備に自分を見返すアランを見ても、コルは何も言わなかった。挨拶もせず、用件を伝える。
「陛下から晩餐会の招待がありました。家族だけの内々のものらしいです」
「晩餐会?」
陛下と聞いて、アランの頭ははっきりしてきた。太陽王は家族にあまり興味がない。自分の女である後宮の女はともかく、子どもたちとは、公式での行事で言葉を交わすくらいだ。どういう風の吹き回しだ。
「夜の君を始め、お妃様たち、皇子、皇女はみな、呼ばれたらしいですよ」
「みんなねぇ」
アランはため息をついた。いろんなお腹から生まれた異母兄弟姉妹。自分の息子を自殺に追い込んだ赤ん坊を憎んでいる夜の君。国母になりたい妃たち。
「おれ、殺されるかな?」
冗談っぽく言ってみたが、冗談のようには響かなかった。
「殺されてしまったら、皆が迷惑します」
コルがさらりと言う。
「でも、喜ぶ奴もいるよ」
アランが切り返すと、コルは冷たく言った。
「王宮の中の馬鹿どものことではありません。国の中のことを言っているんです」
国が迷惑するから、殺されてくれるな。
「そうだな」
アランは短く答えた。悪夢の動悸はもうどこかに行ってしまった。
「着替える。コル、服を持ってこい」
それはわたしの仕事ではない……という訴えは、無言のうちに封殺された。コルはぶつぶつ言いながら、王太子の服を取りに行った。
ザックの店の荷馬車には、白いお仕着せが山のように積まれていた。店の若者たちが、荷が崩れないように作業しながら、しゃべる声が聞こえて来た。
「すごい量だな。しかも急な注文だったんだろ?」
「なんでも、急に晩餐会が開かれることになったから、使用人の服も新品でそろえるんだと」
「はぁ。なるほど。すごいねぇ」
「在庫が足りて、よかったよ」
しゃべりながらも動かしていた手が、ふと止まった。いぶかし気にもう一台の荷馬車を見る。
「あれ?ありゃ、シンじゃないか?」
店を出て、石工の見習いをしているはずの信が、黙々と積み荷を積んでいた。二人が見ていると、キースが来て、何やら信に話しかけている。信は首を横に振って、また黙々と作業を続けた。キースはため息をついて、信と一緒に作業を始めた。
若旦那であるキースが知っているのなら、問題ないのだろう。二人は何も言わず、自分の作業に戻った。




