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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅲ 王の子
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Ⅲ 王の子 -13



 パタパタと慌ただしく女官たちが走り回っている。部屋の奥では女のすすり泣きと、うめき声。でも、誰も慰めようとはしない。

 むしろ、皆が責め立てているような空気が漂っていた。

 女のうめき声はいよいよ大きくなり、ほとんど悲鳴のように叫び始めた。

 敷布が血に染まっていき、女官に引っ張られてきた産婆が、女の足元に行き、息を呑む。

 女の股の間から見えたのは、金色の毛が張り付いた頭。

 最後の痛みに女は渾身の力を振り絞った。

 赤ん坊が滑り出てきて、慌てて産婆が受け止めた。目をこれ以上なく見開いて、赤ん坊をまじまじと見る。皆の視線が集中する。

 途端、赤ん坊がかすれた声で泣いた。

 魔法が解けたように、皆が動き出し、へその緒を切り、白い布で赤ん坊が拭かれる。

 現れたのは、金の髪を持つ小さな赤ん坊。その髪の色の持つ意味に、皆がざわめく。

 女は子供を産み落としてから、ほとんど動かなくなっていた。敷布はますます紅くなっていく。血の匂いが辺りに漂う。

 布にくるまれた赤ん坊を、女官の一人が、黙って女の近くに持ってきた。女は薄く目を開くと、赤ん坊を一目見た。

「そんな……」

 それだけ呟くと、女は息を引き取った。


 アランは汗をびっしょりかいて跳ね起きた。周りを見回すと、荒い息を整える。跳ね上がった心臓が痛いほど胸を打っていた。

 実際見たわけでもないのに、どうしてこんなに生々しい夢を見るのか。自分の出生の秘密を知ってから、おなじみになってしまった悪夢の衝撃を、何度もしたように今朝も寝台の上でやり過ごす。

 母の顔も声も知るはずがないのに、夢の中では毎度同じ声が叫び、同じ顔が死んでいく。きっと本物の母の声と顔なのだろう。

 アランの母は元々、太陽王の長兄、アランの兄王の側室であった。身分が低かったが、兄王が一目ぼれし、身分を隠して通いつめ、王族の肩書なしに愛を勝ち取り、愛しんでいた最愛の人であった。結婚を申し込むときになって、初めて自分が王族で正妃はすでにいることを明かした。それでも、その人は側室となることを受け入れてくれ、兄王との結婚生活が始まろうとしていた。

 しかし地方で反乱がおき、兄王は討伐軍の将として、結婚を前に遠征に出ざるをえなくなってしまった。帰ってきたら、婚姻の儀を執り行うとし、その人は兄王の側室としての扱いを受け、兄王の館に移った。

 半年ほどで、反乱は鎮圧され、兄王も無事戻り、婚姻の儀も無事執り行われた。そしてすぐに妊娠しているとの診断があり、兄王も周りの者も皆喜んだ。正妃にはまだ子どもがおらず、後継ぎがいなかったからだ。しかし、妃のお腹が大きくなるたびに、周りの人たちはこっそり首を傾げた。少し、早すぎないか?

 そして、婚姻の儀から半年後、妃に出産の印が現れた。そして大変な難産の末、妃の命と引き換えに、男の子が生まれた。

 その髪の色を見た時、人々は父親がだれか悟ったのである。

 金色の髪。それは実の父からしか伝わらない。金色の髪を持つ姫は、例外なく神殿の巫女になり、子を作ることはないので分からないが、仮に子を作れば、母から受け継ぐことはあるかもしれない。しかし、父を飛び越え、祖父から受け継ぐという、隔世遺伝は例がなかった。

 兄王の髪は黒だった。だから太陽王にはなれない。だから、長子であっても、王太子ではないのだ。

 太陽王には何人も子がいるが、そのうち誰一人として金髪は発現しなかった。男で金色の髪を持つのは、太陽王ただ一人だったのだ。

 兄王の遠征中、兄王の館に残る妃たちの気持ちを慰めに、太陽王が見舞いに訪れたことがあった。

 その時何があったのか、ほとんど誰も気が付かなかった。

 しかし、出産の月数は合わず、金色の髪の皇子が生まれた。

 知らせはすぐに、太陽王の元にもとんだ。鬼気迫る顔で報告した兄王の側近に、太陽王は一言だけ言った。

「それはわしの子だ」

 すぐに皇子は太陽王の四子宮に連れてこられ、そこで育てられることになった。

 兄王の館に残されたのは、妃の骸と、父に裏切られ、最愛の人を亡くした兄王だけだった。

 それから、兄王は少しずつ精神をすり減らしていき、アランが三歳のとき、自ら命を絶った。


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