表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅲ 王の子
53/170

Ⅲ 王の子 -6

「どうも女官が少ないと思ったら、こんなところに集まっておったか」

 妙に人を威圧するような声が響いた。途端に、今までかしましいほどだった広間が、しぃんと静まり返った。

 そこにいる全員が平伏する。

 蘭が驚いていると、キースが囁いて、頭を伏せさせた。

「お后さまだ」

 痛いほどの、沈黙。后が広間を見回しているのが、平伏している背中に感じられた。

「……おや、毛色の変わった鳥が一羽いるね」

 足音がして、そして、蘭の前で止まった。

「顔を上げてごらん」

 促されて顔を上げると、

 ……蛇。

 蘭は顔を上げたまま、固まってしまった。

 后の目を見続けるのは不敬に当たる。しかし、目が離せなかった。

 太陽王の正妃。夜の君と呼ばれているように、漆黒のうつくしい髪が、ゆらゆらと輝いている。その(かんばせ)は美しく、墨を刷いたような細い眉と、朱で描いたような薄い唇。そして、細い目。その目は細いのにも関わらず、強烈な力があった。

 獲物を捕らえて離さない、蛇のような目。

 蘭は蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。

 后の細い目が、一層細められる。

「お前の着ているものが見たい。立ってみよ」

 言われるままに、よろけながら立ち上がる。

 隣で、キースが息を殺しているのを感じた。

 后は、立ち上がった蘭の頭から、足先までを、嘗め回すように見ていく。ざわりと肌が泡立った。

「ふむ」

 后は改めて蘭の顔を見て、満足気に頷いた。

「その衣、よいな。わたしには似合わないが、お前にはよく似合っている」

 そしてざっと見回すと、黄色い地に草花と蝶が奔放に織り込んである反物を指さした。

「あれをもらおう。美しい布じゃ」

 その反物も寧が染め、柳が織った反物であった。地は濃い黄色だが、織り込んである草花、蝶の鮮やかな色の中に、黒の糸も織り込んでいて、何となく夜を思わせる模様であった。

「はっ。ありがとうございます」

 キースが頭を下げたまま、御礼を述べる。

「それにしても、見たことのないような反物じゃな。これも、この娘の衣のも、その辺りの反物も。どこの品じゃ?」

 キースが顔を上げて答えようとしたとき、出し抜けに裏戸が開いた。

「夜の君」

 若い男の声がして、女官たちは思わず顔を上げた。そこにいる人物を認めて、ざわめき始める。

 蘭はこれ以上開けないほど、目を見開いて、驚いた。

 輝くような金色の髪。何かをかぶっていたのか、少し癖がついている。

 そんな色の髪を、蘭は一度だけ見たことがある。忘れもしない、選定者たちの中にいた、占い師の女。凛を連れて行った人。

「アウローラ」

 后は冷たい声で、その男の名を呼んだ。聞く者に不穏な何かを感じさせる声。

「後宮のこんな端に、何用じゃ」

 噛んで言い含めるように、ゆっくりと言う。

「おぬしの母は、ここにいないというのに」

 女官たちがピクリと反応する中、言われた本人は微動だにしなかった。

 后を見つめたまま、なめらかにしゃべる。

「すみません。この者たちは私が呼んだのです。都での評判を小耳に挟んで、評判の反物を見てみたいと思ったものですから」

 そして、キース、蘭を見ると

「手違いでこちらに来てしまったみたいです。申し訳ありません。四子宮の方に引き取ってもよろしいでしょうか」

 一瞬の間の後、キースは顔をぶつけるかと思うほど、勢いよく頭を下げた。

「も、申し訳ありません。すぐに片付けさせます」

 そう言うと、店の若者たちと反物を片付け始めた。あっという間にかき集め、片付けも早々に、頭を何度も下げ、恐縮しながら、裏戸から退散する。キースに引っ張られ、蘭も出ようとしたとき、后が鼻を鳴らした。今まさに、蘭が出ようとしている裏戸をあごで指し示す。

「そこに隠れておったのか」

 アウローラは笑顔で聞き返した。

「なぜですか」

「髪を覆った跡がついておる」

 笑顔のまま、アウローラは言った。

「さきほど夜の君が選ばれていた反物、美しかったですね。でも……あなたが身に着けるには安っぽいかもしれません」

 失礼しますと丁寧に頭を下げ、アウローラも、蘭たちと共に裏口から出ていった。


 外に出ると、陽の光が眩しかった。

 思わず目を眇めると、一緒に出たキース、店の若者が次々と平伏した。

 后が現れた時と同じだと驚いていると、キースに腕を引っ張られてしまった。

「平伏はよい。四子宮にいくぞ」

 后に対してとは、打って変わってぞんざいに命令すると、アウローラは先に立って歩きだした。

 蘭は状況が分からず、誰かに説明をしてもらおうと、キースたちを見たが、彼らも分かってはいないようだった。

 それではと、アウローラの方に目を向ける。すると、そこには見覚えのある男を見つけた。身なりが以前見た時より、きちんとしているが、あの大きな黒い男は……

「コル?」

 思わず口に出した名前に、アウローラの声が飛んできた。

「無駄口をたたくな。早く行くぞ」

 そういえば、この声にも聞き覚えがある。

 蘭は今度は声には出さずに、口をつぐんで、アウローラたちの後について行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ