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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅲ 王の子
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Ⅲ 王の子 -5

 


「アラン様、来たみたいですよ」

 黒い大きな男がそう告げると、アランと呼ばれた若い男は、読んでいた書状から目を離さず、頷いた。読み終わると、サインをし、決済済みの箱に無造作に放り込んだ。

 息をつくと、それまでの落ち着いていた雰囲気が剥がれ落ち、年相応の顔つきになる。少年といってもいい年頃だ。彼が体を思いっきり伸ばすと、若い身体は、しなやかに伸びた。

「行ってみるか」

 為政者の立派な椅子から立ち上がろうとすると、黒い大きな男……側近のコルニクスは眉を寄せた。

「城内でアラン様自ら動くと、目立ちますよ。だいたいなんだって、あの娘をそんなに気にするんです。通りすがりに、助けただけでしょう?」

 腑に落ちない側近など、気にかけるつもりなどないようだ。さっさと立ち上がり、顎をしゃくって、上着を指し示す。

 コルニクス……コルはため息をつくと、上着を取り、主人に着せた。ついで、黒い布を示されたので、コルははたまた眉を寄せた。

「こっそり窺い見るってことですか?」

 高貴な主人に対しては、いささか砕けた口調だが、アランは気にした様子はなかった。

 ただ、部下の物分かりの悪さに、少しイラついた様子ではあった。

「最初はな。どんな様子か分からんだろう」

 ため息交じりにそう言うと、自ら布を取りに行き、頭に巻こうとする。コルは再びため息をつくと、主人の布を取り上げた。主人のおぼつかない手つきでは、髪をすべて隠すことはできない……その、金色の髪を。

 コルは慣れた手つきでアランの頭に黒い布を巻いた。アランの意向で短く切られた髪は、すっかり布の中に納まった。

 アランは髪を隠すと、途端に元気になり、無茶をしたがる。

 自分の立場から、少し離れた気になれるのかもしれない。しかし実際は、何も変わっていない。御身に何かあれば、大事になる。

 その責任はコルに問われるだろう。自分の命だけで足りればいいが、といったところだ。

 しかしコルはそれ以上何も言わなかった。主人の軽い足取りの後を、ぴったりとついて行くだけだった。


 蘭は内心、ぎょっとしていた。

 ザックの店の者として来たのだから、キョロキョロしてはいけないと、なんでもない顔をしていたが、裏上門を通り、反物を持って、女官たちの個室がある建物の方へ通されると、そこは外とは全く違う世界であった。

 女官と言っても、後宮付きの女官は、良家の子女たちである。後宮で妃や姫に仕え、箔をつけると、良家の子息から縁談が持ち込まれるのである。

 女官として後宮に入る時も、自分の侍女を引き連れていく、お姫さまたちなのであった。

 内側も外側と同じく白亜であったが、その調度品は、高級なもので揃えられていた。女官たちの建物でこうなのだから、王の住まうところはどうなっているのだろう。蘭には想像がつかなかった。

 彼女たちの服も、それでどうやって仕事をするのだろうというような、すばらしい細工が施された衣装である。

 このお姫さまである女官たちに、ザックの店が呼ばれてきたのである。いままでザックたちは町民向けに商売をしてきた。つてがあって、王宮の下働きの服を納品しているが、それは実用第一だし、なぜ急に王宮から、しかも後宮から声がかかったのか、ザックは首をかしげていた。

 しかしニノは、商売の販路拡大のチャンスだと、張り切った。

「うちの織物は品質もいいし、柄も凝っているもの。王宮に出したって、恥ずかしくないわ」

 そう言って、蘭をマネキンに仕立てたのであった。

 少し大きめの広間に通され、反物を並べていると、女官や侍女たちが、続々と入って来た。

 蘭は黙々と反物を並べていたのだが、キースに促され、一緒に挨拶をする羽目になった。キースは愛想よく、女官たちを適度に褒め、頭を下げていく。蘭はキースに合わせて頭を下げた。

 何故だがじろじろ見られているような気がしたが、蘭は目線を下げていたので、女官たちと目が合うことはなかった。

 一通り挨拶が終わると、女官たちは反物の物色を始めた。手に取り、あれこれ比べ、体に合わせて見せ合ったりしている。何かと質問するので、蘭たちは対応に追われた。

 キースたちは普段商売しているので、品質や着心地、合わせ方など如才なく答えることができる。

 蘭は、実際に織っているので、細かなところまで答えることができた。織り方による風合いの違い、模様の説明、色の違いなど。専門的なことを言うたびに、女官たちは納得したような顔をした。

 しかし布は布としか見てこなかった蘭は、どの柄とどの柄を合わせたらいいのかというセンスはからきしだった。こちらはキースが上手で、しかも乗せ方もうまい。

 反物の評判は上々であった。

「ただし、女官長の許可がないと」

 すっかり買う気になった女官の一人が、そう口ごもると、キースは心得顔で頷いた。

「承知しております。これから伺いますよ」


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