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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅱ 都
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Ⅱ 都 -32

 


 真白い新しい衣に身を包み、巫女たちは整然と儀式場を囲むように立ち並んだ。凛もその中の一人として、舞が奉納される舞台の側に並んでいた。舞台は白い布で覆われている。太陽神以外の余人が直接舞を見られないように、帳のように白い布で覆われるのだ。

 儀式場より一段高いところには、大神官と大巫女。そして、少し離れたところに、太陽王と王太子が座っていた。その貴人席からも、舞台の中は見えない。それだけ、白い帳は高く備えられていた。

 儀式場の周りには、一般の参賀者が押し寄せていたが、その人の波ははるか眼下まで広がっていた。

 豊穣祭用の供物が太陽神に捧げられ、凛の織った反物も供えられる。そして、いよいよ、豊穣の舞が奉納される時となった。

 シャラン シャラン

 アシュランが鈴を鳴らしながら、一歩ずつゆっくりと進み出て来た。顔が緊張で強張っている。

 その後ろ、アシュランに三歩後方に、舞姫サラが姿を現した。会場の周りからため息が漏れる。ゆったりとした着物は、凛たちと同じ真白であるが、そこに幾筋もの金の刺繍が施されていた。その金糸が、太陽の光を受けて、キラキラと光る。

 太陽神を祝福する姫。太陽神に祝福された姫。

 頭には金の環を被り、そこから薄い布が垂らされ、顔面は隠れていた。介添え役の鈴の音を頼りに、舞姫は歩を進めていく。

 練習の成果か、アシュランにもサラにも、歩の乱れはなかった。迷うことなく、舞台へと進んでいく。

 やがて、舞台の下に着くと、アシュランは鈴を下に置いた。ここからは鈴を鳴らしてよいのは舞姫だけだ。アシュランはサラの手を取り、舞台の段を昇り、白い帳の中へ消えていった。

 見守っていた凛は、無事に二人が舞台に上がったのを見て、ほっとした。思いのほか、アシュランはしっかり歩けていた。たくさん練習したのであろう。心配していた自分は、アシュランを見くびっていたのかもしれないと、凛は安堵しながら、反省した。

 やがて、帳の中の二つの影は、ぼやけていった。舞台の中央へ移動していったのであろう。影が一つ戻ってきて、隅で片膝をついたのが見えた。

 か細い笛の音が風にのって流れて来た。続いて楽の音が笛の音を包み込むように広がっていく。

 シャランッ

 鋭い鈴の音と共に、舞姫の腕が振り上げられた。

 足はしっかりと地に着けられ、腕は植物が芽吹くように、力強く天に伸びていく。

 伸びて、伸びて……

 シャランッ

 芽は弾け、今度は葉が広がっていく。クルクルと舞姫が舞台中を回り始める。

 白い布に覆われていて、周りの人には、舞姫の影しか見えない。しかし、影だけでも、その舞は十分に感じることができた。

 クルクル回る影を見ながら、凛は自分の周りが葉に覆われていくような感覚に陥った。

 サラの舞に、会場が呑み込まれていく。

 やがて花が咲き、実が実る。

 会場全体が、喜びに溢れていく。

 舞姫も歓喜に溢れ、熱量を増して、踊り続ける。熱量を増すたびに、衣は一枚ずつ脱ぎ捨てられ、舞姫の影は細くなっていった。

 そのたびに、舞台の隅の影が静かに動き、衣を集めていくのが、凛には見えた。舞姫にくぎ付けになっている他の人たちは、気がついてさえいないだろう。

 舞は淀みなく、滞りなく、うまくいっているように思えた。


 あ、いけない。

 薄い衣をつかみ損ねて、アシュランの呼吸が一瞬、止まった。

 舞姫の衣装は、透けるほど薄い布を何枚も重ねたものである。

 布は、滑りやすい。しかし、舞姫の動きに合わせて、邪魔にならないように拾い集めなくては、舞に差し障ってしまうし、拾いそこなえば、舞姫が踏んづけて滑ってしまう危険があった。

 失敗は許されない。

 アシュランは焦って、もう一度つかんだが、その一瞬の失敗が、命とりだった。

 アシュランの動きが乱れた。終盤に差し掛かり、舞の速度も上がっていた。

 サラはトランス状態に入っており、アシュランの存在さえ忘れ去っているようだった。

 慌てて進路を譲ろうと、下手に動いたのがまずかった。

 シャァーン

 悲鳴のような鈴の音が響き、サラの身体はアシュランの身体にはじき飛ばされてしまった。

 サラの意識は飛び、残されたのは片膝をついて呆然とするアシュランだった。

 会場全体が息を呑んだように静まり返った。誰も声を発せず、誰も動かない。楽の音だけがしばらく鳴っていて、不気味だった。

 やがて、それも止んだ。

 痛いほどの沈黙の中、一人の巫女が舞台へと進み出て来た。

 最初、人々は彼女が右手に下げているのが何か分からなかった。それは太陽の光が反射して、キラキラしていた。

 セレネは右手に持っていた細身の剣を構え、舞台を覆っていた帳を、横一文字に切り裂いた。

 布が落ち、舞台の中が露になる。

 そこには薄い白い衣で横たわっている舞姫と、へたり込み、救いを求めるように見上げる介添え役の巫女がいた。

 セレネはアシュランの前に立ち、剣を構えた。

 斬られる……

 なすすべもなく、アシュランはキラキラした剣を見上げていた。

 ふいに、セレネと剣が視界から消えた。



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