Ⅱ 都 -27
アシュランは毎日、介添え役の練習に忙しい。凛とはほぼ別行動となり、練習の様子を聞き出すことはできなかった。
凛が昼食を終えて、食堂から部屋に戻ろうとしていたところで、遅れて昼食にやって来たサラとアシュランを見かけた。二人は連れ立って歩いており、アシュランが熱心にサラに話しかけていた。凛が声をかけようとしたところで、サラがこちらに気が付き、手を振ってきた。
しかし、アシュランはよほど熱中しているのか、凛にもサラが手を振ったことにも気が付いていないようだった。
サラが苦笑して、アシュランに何か言おうとしているのを見て、凛は慌てて首を横に振った。
サラは少し驚いた顔をいたが、分かったとうなずいてくれた。その間中、アシュランはサラにしゃべり続けていた。
二人の後姿を見送って、凛は取り残された子どものように、途方に暮れた。別にサラがアシュランを呼んでくれたってよかったのに、慌てて止めてしまった。
呼ばれて凛に気が付いたアシュランが、バツの悪い顔をするのを見るのが怖かったのだ。自分が邪魔をしたと感じるのが怖かった。
豊穣祭は毎年行われるので、凛にとっては二度目である。しかし去年は一年目の見習い巫女として、ほとんど役割もなく、蚊帳の外からの遠いお祭りであった。
今年は凛の織った反物が奉納され、サラが舞姫となり、アシュランが介添え役となる。去年とは違うのだ。何か大きなものへ進んでいっていることを、凛は感じていた。
止まることはできず、後戻りもできない。
ふいに、凛は自分がたった一人だという孤独感に襲われた。この白い世界でわたしは独りぼっちで死んでいく。
自分は他の巫女たちとは違うと高を括っていた。彼女たちのように、無邪気に信じ、無邪気に群れることはできないと。
アシュランはたまたま自分にくっついてきたから、一緒にいるのだと。
だが実際は、自分がアシュランに依存していたのだ。その証拠に、アシュランが少し離れたと感じただけで、バランスを崩しかける。
パタパタと落ち着きのない足音が聞こえてきた。聞き覚えのある足音だ。
「リン! リン!」
手を振ってアシュランが駆けてくる。その後ろには、サラがやれやれといった風に、ついてきていた。
アシュランはリンのところにたどり着くと、心配そうに見上げて来た。
「リン、ごめんなさい。さっきすれ違ったのに、気が付かなくて。サラがリンの様子がおかしかったっていうから、気になって。大丈夫?元気ないの?顔色もそういえばあまりよくない……」
矢継ぎ早にしゃべり続けるアシュランを、凛は何も答えず見つめていた。アシュランはいつでもまっすぐだ。
「ねぇ、リン、本当に大丈夫?」
何も答えない凛に、アシュランはますます憂いた顔になる。
凛はようやくかすれた声で答えた。
「わたしは大丈夫よ。アシュランは? 無理してない?」
途端に、アシュランは情けない顔になった。
「失敗ばかり。うまくできる自信がなくなっちゃった」
「アシュラン」
後ろで聞いていたサラがたしなめる。豊穣の舞に関することは、安易にしゃべってはならないのだ。
「アシュラン」
凛はアシュランの手を両手で握った。
「アシュランなら大丈夫よ。ちゃんとできるわ」
そう言うと、アシュランの目に光がともった。本当にまっすぐだ。
「ありがとう、リン!」
サラに引っ張られるように去っていくアシュランを見送っても、もう取り残されたような気持にはならなかった。
どこに行きつくにしても、わたしはわたしの務めを果たそう。凛はグッと前を向いた。




