Ⅱ 都 -25
その夜は大宴会となった。
連絡もせず、急に帰って来たにも関わらず、ニノはごちそうを用意してくれた。結局、市場から帰るところに、ニノが駆けつけて、もう一度三人で市場に戻ったのだ。
軽い気持ちで帰って来たので、信はしきりにごちそうの調達を辞退したが、わたしがわざわざ駆けて来たのに、その足を無駄にするの、というニノに一蹴されてしまった。
こうして、ところ狭しとごちそうが並べられ、ザックとキースも出先から戻ってきて、住み込みの見習いも参加して、大宴会となった。
こうして皆でワイワイと食卓を囲むと、針森の村を思い出す。ノックとの男二人の食卓は、やはり寂しい。ノックは料理ができる信に大喜びだったが、大勢でしか食べたことがなかった信は、わびしい気分になった。
最近は、それにも慣れたのだが、やはり大勢で食べる方がいいな、と素直に思った。
「で、仕事はどうだい」
ザックが赤ら顔で聞いてきた。ザックは酒を飲むとすぐに赤くなるのだ。
「おもしろいですよ」
と、信は応じた。
「石を削る仕事といっても、針森とは全然違うし、何を見ても勉強になります」
隣にいる蘭が、身を乗り出してきた。
「織物もそう!全然違うから、別の仕事を一から学んでいる感じなの」
キースが面白そうに言った。
「おふくろが心配しているよ。蘭が自分も織り込んでしまうんじゃないかって」
「蘭はちょっと入れ込みすぎね。針森の人ってみんなそうなの?」
ニノが心から心配そうに聞いた。
信は笑って首を振る。
「そんなことないです。蘭は思いこんだら周りが見えないって、小さいころから言われていました」
身を乗り出していた蘭が、身を引いて椅子に座りなおした。テーブルの下で信は足を踏まれ、ウッとうめいた。
「豊穣祭では、ノックは何か仕事がはいったかい?」
ザックが愉快そうに笑いながら、聞いてきた。
そうなんです、と信が切り出す。
今日はこれを伝えるのが、ここに帰って来た一番の理由なのだ。
「ノックさんが神殿の石垣の修繕を請け負ったんです。僕も行くんですが、蘭も連れて行って良いでしょうか」
神殿には凛がいる。信がそこまで言わなくても、蘭もザックも信の真意が分かった。
ザック夫妻は顔を見合わせ、ザックは恐る恐るといった感じで、信に聞いた。
「あー、それは、ノックは了承済みなのかい?」
仕事で行くのだ。ザックの問いは当然だった。
信は平然として言った。
「ノックさんは、一度蘭を見てみたいから連れてこい、と言っていました。ザックさんが色々言ってくださっておかげで、面白がってしまって」
ああ、とザックは中途半端な声を出した。
ノックの様子が、なんとなく分かったのだ。あいつは、そういうのをおもしろがる男だ。
「分かった。では、蘭、行っておいで。叶えば、祭りも楽しんでおいで。うちは商売があるから、祭りには連れて行ってあげられないから」
凛に会えるとは限らない。見ることも叶わないかもしれない。それでも、凛のいるところに近づくことができる。蘭の胸は高まった。
神殿への出発の日に店に寄るからと、信は一人でノックの所に戻っていった。
蘭は、出発までの何日間か、旅の準備をしながらも、下働きと織物を普段と変わらずこなしていた。
見習いの女の子たちは一様に蘭をうらやましがり、織り小屋の女たちは、その信という子は、蘭の親族か、もしくは婚約者かい、と尋ねてきた。
いえ、村の幼馴染です、と蘭が言うと、腑に落ちない顔をしていた。
そのただ幼馴染と契ったことがあると言ったら、ここの人はひっくり返ってしまうだろうな。
都の人たちは生涯夫婦となる人としか、契らない。ほとんどの人が、生涯ただ一人の人とだ。
ただ一人の人とだったら、わたしは誰と契りたいだろう。
そこまで考えて、蘭の思考は止まってしまう。そうして、無理やり答えを絞り出す。
まだその人とは出会っていないのかもしれない。




