Ⅱ 都 -23
豊穣祭。それは神殿が外の世界と関わる、数少ない機会のひとつである。
といっても、市民と直に関わるわけではない。豊穣祭では、太陽神への織物の奉納と舞の奉納が、神殿で執り行われる。その式典を市民も見物できるのである。
人と隔離されて生活している巫女たちにとって、たとえ、顔も見分けられないほど遠くからでも、外の人の姿を見、自分たちも見られるということは、心躍ることだった。
また、豊穣祭では、太陽王やその家族も、神殿にて儀式に参列する。巫女たちにとって、晴れ舞台であった。
神への供物もほぼ準備が整い、巫女たちは儀式の作法を叩き込まれていた。
織物や神酒の奉納は、神官たちが中心となり、万人の衆目のもと、盛大に執り行われる。巫女はわき役にすぎない。
しかし、舞の奉納は、白い幕に囲まれた舞台で奉納される。その舞を幕の中で見ることができるのは、太陽神と巫女だけである。神官や太陽王であっても、太陽神へ奉納される舞を、男の目に触れさせてはならないとされていた。
「リン! リン!」
儀式の作法を何度も繰り返し、練習させられ、汗ばんだ手を甕の水で洗い流していると、渡り廊下の向こうから、アシュランが駆け込んできた。監督の巫女に見つかると、また小言を言われる。気をもむ凛の様子など一向に介さず、アシュランは興奮して、駆け寄ってきた。
「アシュラン、落ち着いて。また、罰を受けても知らないわよ」
いつもなら、シュンとするアシュランが、今日は違った。落ち着くどころか、ますます興奮していくようだ。
「リン、わたし、舞姫の介添え役になったの!」
飛び跳ねるように言って、アシュランは目を輝かせて、凛の顔を見た。一緒に喜び、興奮してくれるのを待っているのだ。
介添え役というのは、当日舞姫に付き添う役である。舞に集中している舞姫を舞台まで導いていき、介添えをする。一番重要なのは、舞姫が舞を奉納していくなかで脱いでいく衣を、邪魔にならないように集めていくことである。
舞とタイミングを合わせて動かないと、舞台を壊してしまう、重大で難しい役だった。
心から喜んでいるアシュランを前に言うことはできなかったが、日常作務でも失敗が多いアシュランに、どうして白羽の矢が立ったのか、凛は不思議に思った。
信仰の篤さが評価されたのかもしれない。祈りの熱心さは、巫女の中でも際立っている。そう思いながらも、しっくり納得できなかった。
何事もなければいいけど……
「すごいじゃない。よかったわね」
誇りに溢れているアシュランに、凛は心配が顔に出ないように気を付けながら、ほほ笑んだ。
「おめでとう」
お祝いの言葉を口にすると、アシュランは嬉しそうにお礼を言った。その顔を見ていると、自分の心配が考えすぎであるような気がしてきた。
せっかくアシュランが認められたのだ。心の底から、応援してあげよう。
「がんばってね」
そう言うと、アシュランは目を潤ませながら、大きくうなずいた。




