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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅱ 都
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Ⅱ 都 -20

 

 次の日から蘭と信は、考え事をする暇もなく忙しかった。蘭は客分としてこの家に来たわけではなく、織物や商いを習いに来た身分なので、見習いの者たちと一緒に、下働きから役割を振られた。信も、ノックという石職人と話が付くまでは、この店を手伝うことになった。

 朝早くから働き出すのは、針森の村もそうだったので、つらくはなかったが、勝手どころか、生活習慣が違う。そのたびに戸惑った。

 まず食事は各家庭ごとにする。毎日毎食、献立を考え、食材をそろえるのは、毎日まかない所で食べさせてもらっていた二人には、途方もない重労働に思えた。

 普通、都では男は料理をしない。それを商売としている料理人は別として、男は台所に入ることもほとんどない。

 ザックの家でも、普段はニノが先頭となり、見習いの女たちが手伝って、食事をつくるのだが、蘭たちの村では男も女も幼い頃から料理をするということを、ザックから聞いたニノは、ある日、大喜びで二人に任せてしまった。

 蘭たちもそれまでの段取りはともかく、調理は朔に仕込まれて、なかなかの腕前に仕上がっているので、料理はうまい。そうすると、また任される。

 二人は慣れない台所と食材で、悪戦苦闘することが度々あった。その度に、二人はまかない所のありがたさ、朔と洋のすばらしさを語り合うのだった。

 しかし、これはすごいと思うこともたくさんあった。まず、水道である。

 針森の村には水道が通っておらず、毎朝、川に水を汲みにいかなくてはならない。まかない所では、いつの食事当番でも、水汲みが最初の仕事である。川が近いと言っても、村全員のまかない分の水を汲むのは、大仕事であった。

 しかし、都では水道栓を開けると、水が出てくるのである。最初に水道から出てくる水を体験したとき、つい水道から出てくる水を眺め続けて、ニノに叱られてしまった。無駄遣いしてはいけないというのだ。何もしなくても出てくる水を、使いすぎてはいけないという感覚も、二人には驚きであった。

 ここでの生活に慣れることに精一杯で、蘭は凛のことで思い悩む暇も、信が蘭に言いよる暇もなかった。

 二人は子どもの頃のように、屈託なく、目の前の課題に力を合わせて挑んでいる、いわば仲間であった。

 蘭はそれが楽しくて、信との関係も、昔のように気安いものになっていた。

 ただ、店先から、または外回りから戻ってきたキースが、二人に構っては、信と険悪になるのは相変わらずで、そのうちこの店の日常茶飯事となってしまった。

 ザックは店の主として鷹揚で、どっしりと構えており、ニノは店の者にきびきびと指示を出し、自分もこまこまとよく働いていた。

 針森の村でのザックとは随分雰囲気が違うなぁと思い、キースに尋ねてみると、キースに笑われてしまった。

「それ、絶対おふくろには言わないでよ」

 そう耳打ちすると、頭をかきかき出て行ってしまった。

 ポカンと見送る蘭をみて、信がつぶやいた。

「蘭って、本当に鈍いよね」

 俺は身に染みて知っているけど……と続ける。

 一人だけ置いてきぼりにされた気分で、蘭はおもしろくなかった。


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