Ⅱ 都 -19
大門を潜り抜けると、そこは別世界だった。城下町へと続く大通りの脇は、みっしりと大小様々な店が立ち並び、その奥には、家々がどこまでも続いているかのようだった。
これまでの道のりで、何回か泊まった宿場町でも、珍しがっていた針森の二人だが、その建物の多さと人の多さに度肝をぬかれていた。
針森の村をでてから、五日経っていた。
五日もと言うべきか、しかし、たった五日歩いた先は、こんなに違う世界が広がっているのかというのも、二人を打ちのめしたと言っていい。
「よそ見していると、はぐれちゃうよ。それに、するっと荷物を盗られてしまう。しっかり、目を配っておいてくれよ」
用心棒さん……と、からかい気味に言うが、冗談でないことは、信にも蘭にもよく伝わった。
盗られる心配があるのは、自分たちの荷物ではない。柳と寧が織った反物だ。
二人はおのぼりさん気分を止め、しっかりと歩き出した。
蘭はまた頭に布を巻いていた。
旅装で弓矢を持っている女の姿は、ここでは非常に目立つ。頭に布を巻いていても、近くですれ違った人が、ぎょっとして振り返ることが、何度かあった。
当の蘭は気が付かないことが多かったが、蘭の後ろを歩いている信とキースは、男が振り返るたびにイライラしていた。振り返った男たちは、どうにか蘭の顔を見ようと試みていた。
こんな美しい男がいるだろうか?
彼らの目は、一様にそう言っていた。
これは、都でも苦労しそうだ。
信は深いため息をついた。ある意味、針森の人間は、蘭や凛の美しさに慣れてしまっていた。ここでは、多くの男たちが、蘭の美しさに目を奪われるだろう。
……これで、自分では、きれいだと思っていないのだからなあ。
思い出し笑いをしそうになって、信はあわてて顔を引き締めた。
きれいだ、美しいと言われるたびに、蘭はいつもきょとんとする。
凛の方がきれいだわ。
決まってそう言う蘭は、多少不愉快そうに、そして大いに自慢げであった。
昔の思い出に頭を持っていかれそうになって、信は他の人に気づかれないように、小さく頭を振った。
凛にこだわっているのは、俺も同じか。
前を行く蘭は、緊張しているのか、肩を張って歩いていた。他人の視線には、気が付いてもいないようだった。
大通りから一本入ったところに、ザックの店はあった。ザックの店は織物、反物を扱う問屋であるが、機織り職人も抱えていた。
カタン カタンという、聞き覚えのある音が微かに聞こえてくると、蘭の緊張は一気に解けた。
ザックたちは表からは入らず、裏口へ回るつもりらしかった。店の前を通った時、店の中の者が気が付き、奥へ走って行くのが見えた。
裏口に回ると、すでにおかみさんと、店の者が出迎えていた。
一行の姿を見つけると、遠目でも、おかみさんの顔が輝いたのが分かった。コロコロした身体を弾ませて駆けてくると、ザックに抱きついた。
「おかえりなさい、あなた」
ザックは笑って、ただいまと答えた。心からほっとした顔だ。
次におかみさんは、息子を見ると、
「なにごともなかったかい」
と尋ねた。冷たくはないが、ザックへの熱烈歓迎ぶりとは、だいぶ違う。
キースは、苦笑して、応えた。
「全て、順調だったよ、おふくろ」
「それは、よかった」
そう言うと、ザックから離れ、いよいよ蘭と信に目を向けた。姿勢を正す二人に、にっこりと笑顔を向けてくれた。陽だまりみたいな笑顔だな、と蘭は見とれた。
「あなたが、ランね。話は聞いているわ。で、あなたが…?」
急な同行となった信のことは、先に伝える暇がなかったのであろう。ザックが信の肩に手を置いて、紹介を始めた。
「彼は信。石を扱う仕事をしているんだが、見聞を広めたいというので、ノックのことを紹介しようかと思っている」
おかみさんは、あっさりうなずいた。
「わたしはニノよ。よろしくね」




