Ⅱ 都 -17
今日は夢見が悪かった。
凛は寝台の上で身を起こし、しばらくじっとしていた、
夢の中で蘭が出てきた気もするが、それよりも引き離された喪失感が生々しかった。
……もう少しで、出会えそうだったのに。
夢の中でしか会えないのなら、夢の中ぐらいちゃんと会わせてほしい。
まだ起床の時間ではなさそうだが、目が覚めて、さっそく用が足したくなった。そろそろと寝台から這い出る。
巫女たちは小さいながら個室を与えられている。白い小さな部屋は、凛には時に圧迫感を与えたが、一人になれる安らぎも与えてくれた。
寝間着のまま部屋の外に出ることはご法度だが、まだ誰も起きていないと踏んで、凛はそのまま廊下に滑り出た。
廊下はしぃんとしていて、昼間以上に白い気がした。ひたひたと歩いていくと、急に人影が現れて、凛は思わず、叫び声を上げそうになった。
口に手を当てられ、相手にしぃっと制された。
「セレネ!」
会いたいと思いながら、それがかなわない相手が、なぜこんなところにいるのか、凛はまだ夢の中にいるのかと自分を疑った。
セレネは白い布を頭からくるぶしまで巻き付け、ほほ笑んでいた。
「あなたの部屋で待っているわ」
耳元に口を寄せてそう言うと、凛の部屋の方に歩いて行った。
用を済ませて部屋に戻ると、寝台にセレネが腰かけて、待っていた。
どうしていいか分からずに、入口に佇んでいると、セレネは隣に腰かけるように促した。
「久しぶりね」
セレネとの会話は、いつもこの一言から始まる。そしてその微笑みは、やはり久しぶりといった感じではなかった。
「こんな時間に、どうしてこんなところにいらっしゃったのですか?」
凛から聞いてみる。この間は、呆然としている間に、話しを進められてしまったからだ。
しかしセレネは、そんな凛の思惑など見通しているかのように、クスリと笑った。
「夢を見たの」
凛の心臓がドキンと跳ね上がった。
「あなたの片割れの夢」
やっぱりね、という表情が、セレネの顔に浮かんだ。
「だから、あなたも目を覚ましてしまったのではないかと思ってね」
セレネは凛の顔に目を向けながら、遠くをみるように目を泳がせた。まるで、わたしの頭の中を覗こうとしているみたいだと、凛は身じろぎした。
「あなたが蘭の夢を見たからと言って、どうしてわたしが目を覚ましたと思ったのですか」
頭の中を見られないように焦ったつもりではなかったが、自然と早口で強い口調になった。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。至極当然な質問だ。
セレネの視線が、やっと凛の視線と合い、セレネは、そうねとつぶやいた。
「わたしが占い師だからかな」
この人はいつも曖昧な言葉で、わたしを煙に巻く。凛はだんだん腹が立ってきた。
そうは考えないようにしてきたが、この人のせいで、わたしはここに来たのだ。
「いつも、何も説明してくれないのですね。それでいて、あなたの思惑通りに、わたしの人生が決められていく」
詰るような口調に、セレネは動じなかった。
「わたしの思惑ではないわ」
そうして天を指さす。
「神のご意思よ」
……どうしてこの人の髪は金色なのだろう。凛は関係ないことをふと思った。
セレネの姿は神々しく、迷いがなかった。
「太陽神への反物は織り上がった?」
何事もなかったかのように、セレネはいつもの口調で尋ねた。
凛は無言で肯いた。
「もうすぐね」
セレネは楽しそうに歌うように話す。
「すばらしい豊穣祭になるわ」




