Ⅱ 都 -13
出立の日、集まった人の表情はそれぞれであった。ザックは慈愛に満ちた目で若い二人を見、キースは興味深そうに信を見ていた。信はすました顔で両親に挨拶し、信の父親は納得したとは到底思えない憮然とした顔で、両腕を組んでいた。やっと息子が業を継いでくれたかと思ったら、出ていくというのだから無理もない。
剛は愉快そうに大笑いしており、信の父親に睨まれていた。笑いが収まると、親友の所に歩み寄り、がっちり手を握ると、「しっかりやれよ」とわざとらしいくらい肩をたたいていた。
見送りに来ていた他の村人は、なぜ信まで村を出ることになったのか、いまいち話についていけず、一団を見守っていた。
蘭は、信が自分の為に村を出ることにしたのかもしれないと控え目な罪悪感を抱きつつも、この出立が重苦しい雰囲気ではなくなたことに安堵していた。
蘭一人であれば、見送るものたちの心には哀れみや悲しみが宿っただろう。
しかし信と二人、若い二人が一緒に旅立つことで、若気の至りで村を出る二人の旅立ちといった雰囲気になった。
「では、出発するか。蘭、親御さんへの挨拶はもういいのか」
ザックが声をかけてきた。
蘭は慌てて、柳、青、寧のところに駆け寄ると、深々とお辞儀をした。
「行って参ります」
返事がないので訝しく思い、顔を上げると、柳は必至で泣くまいとしている子どものような顔をしていた。蘭と目が合うと、眼尻と口角がぎこちなく動き、失敗した笑顔のような顔になった。
凛を送り出した時、みんなで誓った言葉が頭をよぎる。
……誉れある巫女として送り出そう。
蘭は笑って柳を抱きしめると、青を見つめた。青は蘭の頭を何度もなでてくれた。
寧を見ると、寧は少し遠くを見ているようだった。蘭が声をかけると、ゆっくり蘭の方に顔を向けた。
「寧、柳と青をお願いします」
「柳はいいけど、青は知らないわ」
寧がそっけなく答えると、青は苦笑し、蘭の頭をポンポンとたたいた。
「大丈夫だよ。だって、また帰ってくるのだろう?」
蘭は頷くと、柳の体をそっと離した。ザックたちの所に戻ると、他の三人はもう準備ができていた。蘭と信は手を上げると、村の皆に大きく振った。
この旅は、希望に満ちている。
蘭は心に強く思った。
豊穣祭が間近に迫ってくると、同僚たちも日に日に忙しくなり、もう凛のことで、やっかみ半分の噂話に花を咲かせる暇もなくなった。
自分のことが話に上らなくなって、凛は体も心も一気に楽になり、自分が思っていた以上に、噂されることを気に病んでいたことに気が付いた。
凛は自分を気遣ってくれたアシュランにお礼を言うと、アシュランはその時のことを思い出して、再び怒りが湧いてきたらしく、また怒りだしてしまった。
凛があわててアシュランをなだめると、アシュランはフンと鼻を鳴らし、
「リンはもっと怒るべきだと思っていた。気にしていないふりなんかせずに。わたし一人で怒ってバカみたいって、ちょっと思っていたの」
凛が申し訳なさそうな顔をすると、
「でも、気が付いてくれてよかった。リンにはいつも助けてもらっているから、助けることができてよかったわ」
と、笑った。
アシュランの好意はいつもまっすぐだ。その裏表のなさに、凛はたじろぐほどだった。
太陽神へ貢ぐ反物は、完成に近づいていた。
赤、黄、金の美しい模様が織り込まれた布は、それはそれはあでやかな反物になっていた。白い世界の中の、たったひとつの極彩色。それは、太陽神の存在そのものだった。染まれと言われれば、染まらなくてはならない。
アシュランの信心と、この世界の理屈は、違えることがないだろう。
でも自分は……
違和感を感じるこの世界に、死ぬまでいなくてはならないことを考えると、凛は小さく身震いした。




