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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅱ 都
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Ⅱ 都 -12

 


 社に行くのは、巫女のことを聞きに行った二年前以来だ。森に埋もれているというのが、社の印象であった。青の薬草小屋のように山奥に建てたわけではないのだが、社は山際のくぼ地に山に埋もれるように建てられていた。ツタも社の周りに生い茂り、あたかも山の一部であるかのようである。

 蘭は社の入口で、少し背すじを伸ばすと、コンコンと木の扉をたたいた。

 中から顔をのぞかせたのは、桜婆付きの(れい)であった。

 目が見えないはずなのに、蘭が何か言う前ににっこり笑って、扉を大きく開いて、蘭を招き入れた。

「お待ちしておりました、蘭」

 なぜ分かったのかという無粋なことは聞かない。桜婆付きというのは、伊達ではない。見えていなくても、視えているということだろう。

「桜婆様は元気?」

 緊張をほぐすために、蘭が当り障りのないことを聞くと、玲はコロコロ笑いながら言った。

「ええ、ピンピンされていますよ」

 建物の中は薄暗く、ひんやりとしていた。木で作られていた壁が、歩いているうちに、岩肌に変わった。岩のくぼみを利用して、井奥は岩屋になっているのである。

 一番奥深いところに桜婆の居室がある。玲は藁で編まれた御簾の外で声をかけると、中からしわがれた、しかし張りのある返事が聞こえてきた。

「お入り」

 玲が御簾を上げ、蘭を招き入れる。

 蘭は一礼して中に入り、示された円座に座った。桜婆は部屋の奥で、ちょこんと円座に座っていた。こんなに小さかったかと、蘭は驚いた。二年前に見た時は、遠目でも、もう少し大きかった気がしたのだが。ただ、存在感はさすがで、小さな光る珠のような人だと思った。

 余分な円座は見当たらなかったが、どこからか玲が円座を持ってきて座るのを、蘭は黙ってみていた。

「二人で話したいといったのじゃが」

 桜婆は苦笑しながら言った。

「この玲が邪魔をしないから、ここにいたいというのじゃ」

 咎めるように言うと、玲は全く悪びれる風もなく、頷いた。

「村で起こることを余すことなく耳に入れ、頭に刻み込むのが、口伝師の務めです」

 返事を伺う桜婆の目に、蘭は戸惑いながらも頷いた。

「わたしは構いませんが」

「では、こやつのことは置物とでも思っておくれ」

 桜婆の言葉に、玲も真顔で頷いた。


「まぁ、でもそんなに話すことはない」

 気の抜けるようなことを言って、桜婆は蜜茶を一口すすった。釣られて、蘭も茶に手を伸ばす。玲は黙って目を閉じていた。本当に置物になろうとしているかのようだ。

「凛に会いに行く気か?」

 油断をしていると、桜婆はいきなりずばりと聞いてきた。蘭が押される形で頷くと、小さかった桜婆がぐっと大きくなったような気がした。桜婆は目を見開き、蘭の目をギッと見つめた。

「それからどうするのじゃ」

 蘭は瞬いた。それから?

「凛に会えたとしても、面会できるだけじゃ。神殿に一緒に住めるわけではない。それから、どうするのじゃ?」

 ザックたちについて、織物をするのだろう。しかし、桜婆が聞きたいのはそんなことではないことは、蘭にも分かった。だから、迂闊に返事ができなかった。

 桜婆は重ねて言った。

「凛も今、必死に神殿で生きておるじゃろう。お前も自分が生きる所を見つけなきゃならん。そこは、凛のおるところでは決してない」

 分かるな?と問う桜婆に、蘭は何度もうなずいた。そんなことは分かっていた。皆が心配しているのも。自分が凛から離れていないのも。

 桜婆は表情を和らげた。姿もまた小さく戻った気がした。

「わしも若い頃、愛しい者が巫女になった。わしは会いに行けなんだよ。それを今でも後悔しとる。仕方ないことだと分かっていてもな。お前さんは幸運じゃよ」

 それはそうと、と桜婆はわざとらしく膝を打った。

「もう一人、村を出たいという者がおったんじゃよ。そっちはお前と違って親と揉めてな、わしが取り成してやったんじゃ」

 ちとえこひいきじゃったかとも思うが、と桜婆が頭をかいていると、いつのまに席を立っていたのか、玲が若者を連れて入ってきた。

 若者を見て、蘭はぽかんと口を開けた。

「信!」

 信は蘭の方は見ず、蘭の隣に座ると、桜婆に深々と頭を下げた。

「この度は、桜婆さまのお力添えで、父を説得することが出来ました。ありがとうございます」

 桜婆は苦笑いしながら、まだ頭をかいている。

「どういうこと?」

 蘭が当然の質問をすると、信はやっと蘭を見た。

「俺も石師の技の見聞を広めたくて、村を出ることを願い出たんだよ。ザックさんは石は扱わないけど、都で知り合いを紹介してくれる」

「強引じゃの」

 桜婆のつぶやきが、蘭の耳にも聞こえた。


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