Ⅱ 都 -6
秋の刈入れの時期になると、神殿でも、収穫に感謝する豊穣祭の準備で、何となく浮足立つ。
毎日の仕事に、豊穣祭の支度が増えるので忙しいのだが、日々の単調な暮らしに変化を与えるものとして、巫女たちは楽しく働いていた。
監督する巫女たちは、ここぞとばかりに張り切って指示を与えていた。
特に巫女たちの関心事は、祭りの時、太陽神に舞を奉納する舞姫には、誰が選ばれるかということである。
舞を奉納することは日常の神事である。よって一通りの舞は、巫女たち全員が仕込まれていた。
しかし豊穣祭の舞は特別なものであった。太陽神に収穫の感謝を表し、太陽神をより喜ばせるため、官能的な踊りであり、豊穣祭で舞う者にしか伝えられない秘技であった。
凛は機織りに追われていた。平常でも、ほぼ毎日織っているが、太陽神への貢ぎ物を織る役目に任ぜられ、その他の務めも免除され、ただひたすら、太陽神に奉るための反物を織っていた。
太陽神が身に付けるものは、赤、黄、金と決まっていた。普段白い布しか織ることができない凛にとって、鮮やかな色を使っての織物は楽しかった。
寧の染める鮮やかな糸を思い出す。
しかし同時に、太陽神へ奉納する反物に使う高級であろう糸も、寧が染める糸の色にはかなわないと思った。
カタンカタンと軽快に織機を鳴らす凛の肩を、誰かがたたいた。
振り向くと、セレネが立っていた。
占い師は、普通の巫女たちとは別のところで生活しているらしく、見かけることはほとんどなかった。
セレネは、村から神殿までの旅で、いつも
傍らにいて、助けてくれた。
そしてこの神殿に着いたその日に、神殿の奥にある、大巫女の部屋に連れていかれた。それが最後だ。薄暗い、長い廊下を、セレネと一緒に歩いたことを覚えている。
「久しぶり」
ふわりとほほ笑む親しさは、「久しぶり」といった感じではなかった。昨日でも会ったかのような気やすさだ。
しかも作業中に話しかけるのはご法度だ。しかし監督する巫女は、誰一人とがめにやってこなかった。どうやらセレネは特別扱いらしい。
「邪魔をしてごめんなさいね。しばらく、あなたが織るのを見ていてもいいかしら」
そう言うと、凛がいいとも言っていないのに、腰掛を持ってきて、凛の側に座った。
微笑みを浮かべて、凛が織るのを眺めている。いや、もっと濃厚な視線だ。見つめている。
そんなに見つめられていれば、集中できない。最初は気になって、遅々として進まなかった手も、そのうち気にならなくなってきた。
凛の織機が、カタンカタンと、リズミカルな音を立て始めた。
「すばらしいわね」
何時間たっただろう。セレネの存在も忘れていたころ、セレネが急に声を発して、凛は手を止めた。
セレネを見ると、困ったような顔をしていた。
「あなたを舞姫にと思ったのだけど、その織物を途中で辞めさせるわけにはいかないわ。あきらめる」
一方的に言われて、凛もどう答えていいか分からない。だいたい舞姫の話が出ていたなど、初耳だ。
凛がなにか言う前に、セレネはさっさと立ち上がり、腰掛を片付けに行った。何事もなかったかのように、部屋を出ていこうとするセレネを凛は思わず呼び止めた。
「あのっ」
セレネが振り返る。腰を浮かしかけた凛のところに戻ってきてくれた。何?と目で促され、凛は特に言うことがないことに気がついた。
「お元気でしたか」
出てきた言葉は、陳腐なものだった。しかし、この二年で、セレネとは滅多に会えないことが分かった。凛はアシュランを別にしたら、この神殿で心を開けるのは、セレネしかいなかった。やっとまた会えたのに、何も話せないなんて、あんまりだ。
セレネはにっこり笑うと、凛の頭をなでてくれた。
「元気よ。あなたも元気そうで安心したわ。でも、そうね……」
セレネは申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさいね、せっかく隠れていたのに。今日、わたしが来たことで、あなたは表に引っ張り出されるわ」




