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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅱ 都
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Ⅱ 都 -2

 


 ここは何もかも白い。

 凛が、巫女たちが暮らす、この太陽神の神殿に来てから、二年。もう二年も経つのに、未だにその白さに慣れなかった。

 柱も壁も天井も白。白い衣の巫女と神官。

 毎日、いかにその白を磨き上げるかが、凛たちの仕事だった。

 その後は、勉学と機織り。針森の村の思い出に、あんなに耳に残そうと思っていた機織りの音を、毎日聞くことになるとは思わなかった。

 機織りは好きだったが、ここでは白い布しか織れない。永遠に白い布を織っていると、頭の芯がぼおっとして、自分がどこにいるか分からなくなることがあった。はっと気が付くと、針森のあの機小屋ではないかと思ってしまうのだ。

 蘭はどちらの職を選んだだろう。織師なら、同じことをしていることになる。そう思うと、途方もない白さの中に、温かい色が混ざっていく感じがした。

「リン」

 物思いに沈んでいると、隣の織機から呼びかけられた。そちらを見ると、同期の巫女の中で一番仲の良い、アシュランという巫女が困った顔で凛に助けを求めていた。

 アシュランは都の商家の娘である。裕福な家庭で育った者らしく、おおらかで頭はよいが、作業をするということが苦手だった。特に機織りは苦手で、どうして神酒造りの方にならなかったのか、本人も不思議がっていた。巫女は日々の作業の他に、機織りをする者と、神酒づくりをする者に分かれる。巫女が織った白い布は太陽神に供えられる他に、神官や巫女の衣服にもなった。神酒は雑穀を巫女が口に含んで、唾液と混ぜ、発酵させた酒で、太陽神に捧げる為にしか造らない、特別な酒であった。工程、管理は大変だが、手先の器用さは求められない。アシュランはてっきりそちらに回されると思っていたのに、意外であった。

 凛はアシュランに頼られるのが嫌いではなかった。妹に甘くなっていた蘭の気持ちが分からなくもない。

 監督している年配の巫女の目を盗んで、アシュランの悩みを解決してやると、感謝の気持ちいっぱいといった笑顔を向けてきた。この白い世界で、心休まる一瞬である。

「リン」

 監督している巫女の声がして、凛は表情を消した。見上げると、織物担当の巫女を束ねている長の顔があった。

「はい」

 はっきりと返事すると、長は微笑んだ。

「美しく織られています。すばらしい」

「ありがとうございます」

 長は笑顔を張り付かせたまま、続けた。

「ただ、これは修業でもあるのです。慎みなさい」

 凛が頷くと、長はアシュランのもとへ行き、二言三言言うと、アシュランは泣きそうな顔で立ち上がり、部屋を出て行った。

 凛はため息をついた。アシュランはきっと、「神との対話の部屋」という白い小さな部屋に連れていかれたに違いない。修業中にへまをした巫女は、ここで神に向き合い、反省する。アシュランはここの常連だった。凛も神殿に来たばかりの頃は、よくここに入れられ、反省を促された。何もない白い狭い部屋に入れられると、気が狂いそうになる。二年も経てば、どんなことをすれば年配の巫女の怒りにふれるのか分かってきて、入れられることもなくなった。

 二年経っても、アシュランは相変わらずである。

 凛は皮肉気にそっと笑った。信仰心からしていえば、凛などアシュランの足元にも及ばない。

 アシュランの太陽神に対しての信仰心はとても篤いものだった。アシュランの信仰心を目の当たりにするたびに、凛は驚き、居心地の悪い思いをした。熱を帯びた目で太陽神を語り、軽んじることなど思いもよらぬ言動に、凛は相槌を打ちながら、心が遠くに行くのを感じていた。どこの出身かという話になった時も、山奥の方とだけ言って、お茶を濁していた。太陽神への信仰が薄い、針森の村だと知られると、アシュランはどんな目で自分を見るか、考えると言えなかった。


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