表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅰ 針森の村
12/170

Ⅰ 針森の村 -12

 

 早朝に、凛と一緒にこの家を出た時とは、世界が変わってしまったかのようだった。蘭は落ち着きなく、部屋の中を歩き回っていた。何か悪い夢でも見ているようだった。

「蘭、落ち着きなさい。座っていて」

 円座に座った柳が、たしなめた。隣では。青が、目を閉じて座っていた。瞑想しているかのようだ。

「だって!」

 待っていたかのように、柳に噛みついた。

「もし、巫女になることを、凛が承知したら、どうするの!」

 溢れる思いが、ついに涙になって流れてしまった。

 柳は静かに言った。

「凛は巫女になることを、受けるわ」

 柳は立ち上がり、凍り付いたように動きも涙も止まった蘭を、そっと座らせた。

「巫女に選ばれることは最大の誉れ。特に都ではそうだわ。巫女になることを強いられはしないけど、その誉れを断ることは、神殿の権威を、そして太陽王の権威を、傷つけることになる。そうなれば、太陽王も何か制裁をしてくるかもしれない。凛にも、針森の村にも」

 いつの間にか、青は目を開け、宙をにらんでいた。何か痛みに、耐えるように。

「凛はそのことを分かっていると思う。あなたは凛への思いで目が曇っているけど、凛はしっかりと考えている目をしていたわ」

 柳は蘭の頭を何度もなで、頭を抱きしめた。柳の顔は蘭から見えなくなったが、柳の声は震えていた。

「泣いていては、凛がここに来た時、笑われるわ。あの子を悲しみの巫女にしてはいけない。誉れある巫女として、送り出してあげないと」

 蘭はすぐには頷けなかった。柳の腕の中で、長い間じっとしていた。


 日も落ちて、もう暗くなったころに、家の戸がたたかれた。

 柳は静かに立ち上がると、戸を開けた。五人の選定者、そして凛、最後に狩師の長である剛の父を招き入れた。

 凛の髪は乾き、美しく梳かされていた。黒いまっすぐな髪がなびき、巫女に選ばれたと思うからか、蘭の目にはすでに遠い神秘的な存在に映った。

 蘭と目が合うと、凛は少し微笑んだ。しかし口は強く引き結んだままだった。

 皆が、円座に座るとかなりきつかった。それだけが現実味を帯びていた。

「凛さんとお話をしました」

 話し始めたのは神官の長だった。

「偉大なる太陽神のこと。その方に仕える巫女とは、どういった存在なのかということ。そして、その巫女にあなたが選ばれたのだということ」

 神官の長は、凛を一瞥し、満足そうに微笑んだ。

「彼女は快く承知してくれました」

 快く…ではないことは、この場にいる誰もが分かっていることだった。凛の家族や剛の父だけでなく、選定者たちでさえ、太陽神に対しての信仰が篤いとは言えないこの村の者が、巫女に快くなるとは思っていないだろう。

 しかし、占い師が視てしまったのだから仕方ない。巫女になるべき者を見逃すわけにはいかないのだ。そしてその誉れは、快く受けなくてはならない。

 柳と青、剛の父が、選定者、そして凛に向かって額ずくのを見て、蘭も慌ててそれに倣った。

「わたくしたちの娘が巫女に選ばれる誉れ、謹んでお受けいたします。今後のご健勝とご活躍を切に願います」

 柳の口上を受けて、凛は深々と頭を下げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ