Ⅴ 神意の行方 -14
王の居室にたどり着くと、ウェンが中から出てくるところだった。
「あれ、蘭、こんな時間にどうしたの」
蘭はウェンを押しのけ、物も言わずに、部屋に入った。
陛下が寝台に横になっているのが見えた。規則正しく、胸が上下している。寝ているのだ。
そっと衣服をはだけさせ、身体を検める。新しい傷はなかった。
ほっと息を吐き、身体の緊張を解く。
よかった。何もされていない。
「気を抜くのは、まだ早いんじゃない?」
ウェンがいつの間にか、近くに立っていた。振り返ると、扉が閉まっている。ウェンを見ると、いつもの笑顔だ。
「じゃあ、なんで僕がこんなに早く来たと思ってんの?」
立ち上がろうとすると、膝に力が入らなかった。頭がぼんやりとしてくる。
「陛下に会いに来たんじゃない。君に会いに来たんだよ」
意識に幕が下りてきて、蘭は体が支えられなくなった。崩れ落ちる蘭を、ウェンが支えるのが分かった。
「また、後で、ゆっくりね」
ウェンの声を聞きながら、蘭は意識を手放した。
ウェンは蘭を寝椅子にそっと横たえると、寝台で眠っている太陽王に近づいた。この部屋で起こったことなど、気にもしていないように、安眠を貪っている。
「ねぇ、父上」
ウェンは痩せこけた王の頬を撫でた。スースーと寝息が聞こえる。
「僕の髪が金色だったら、息子だと愛してくれた?」
王は反応することなく、寝息を立て続けた。ウェンは少しの間、王の顔を見ていたが、やがて何かを吹っ切るように、顔を背けた。
「蘭が死んじゃうからもう行くね」
ウェンは蘭を抱きかかえると、振り返らずに言った。
「さよなら」
アランははっと目を覚ました。
息が荒く、汗をたくさんかいていた。
自分の手をまじまじと見る。掴んでいた突起が砕けていく感覚が、今でも手に残っていた。それにあの浮遊感……そして落下。
ランを呼んだ気がする。そこにランがいた気もする。しかし、それは単なる気のせいだという気もした。
奈落に吸い込まれていく瞬間に目が覚めた。亡者たちの気配が、膝のあたりまで這い上っていた。
アランは深いため息をついた。
踏ん張らなくては。下まで落ちるわけにはいかない。
とりあえず着替えようと起き上がった時、廊下をバタバタと走る音が聞こえた。
まだ外は薄暗い。
アランは顔をしかめた。こんな朝早くに何だ?
扉をたたく音がした。入れ、と促すと、先日蘭と一緒に戻ってきた近衛兵が、部屋に転がるように飛び込んできた。
「申し上げます」
片膝を立て、胸に手を当てる。
「国境近くにガザ軍を発見しました。進軍を続けている模様です」
「どこだ」
「針森の村より、北です」
「数は」
「百ほど」
百……少ない。
「分かった。王宮へ行く。あと大臣たちを招集しておいてくれ」
はっと、兵は頭を下げると、部屋を飛び出していった。




