表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅴ 神意の行方
115/170

Ⅴ 神意の行方 -10

 


 ウェンはアランの幼いころを知っているようだったが、アランは思い出せなかった。

 カロイの馘、そしてウェンの内大臣登用は、太陽王から直接命じられただけだと聞いて、アランは不審なものを感じたが、太陽王直筆の証書もきちんとあったので、異を唱えることは出来なかった。

 この国は太陽神、ひいては太陽王の国だ。

 カロイの次官を務めていた兄を差し置いて、最近まで姿も見なかったウェンがなぜ登用されたのか、謎であったが、不思議なことにカロイからもサムからも、不満は聞こえてこなかった。

 太陽王に気に入られて、よく召されているので、その辺が関係しているのかもしれない。

 実際、ウェンはよくやっている。

 ただ、気になる点は多々あるが。

「ウェン、父上の容体はどうだ?わたしも見舞いに行きたいのだが」

 四子宮まで来て、報告を済ませたウェンに、アランは尋ねてみた。

 ウェンは几帳面に、アランの部屋まで業務の報告に来る。ただ、太陽王の様子は、こちらから訊かない限り、何も言わない。太陽王に頻繁に召されているはずなのにだ。

 こちらから訊いたとしても、いつも答えは一緒だった。

「少しずつですが、回復しておられます。ただ、まだ揺り戻しも激しく、会われるのはもう少し待った方が良いと思います」

 ドムの件で謁見したときも、もうだいぶ薬に侵されていると思った。あそこから回復させるのは、相当時間がかかるだろう。それは分かる。ただそれがウェンの口からしか分からないのは、少し気持ち悪かった。



「おや、また説教されにきたのか?」

 夜の君の蛇のような目が、嬉しそうに細められた。蘭はぞくりと肌が粟立つのを感じながら、いえ、と首を横に振った。

「こちらに私の仕事がないかと思いまして」

 いつもは見つからないようにこそこそしているくせに、いけしゃあしゃあとそう言う蘭に、夜の君は一瞬真顔になり、その後声を上げて笑った。女官たちがぎょっとする。

「これはいつになく愁傷じゃの」

 じぃっと蘭の目を見つめる。蘭は正面から后の凝視を受け止めた。やがて后はおもむろに立ち上がった。

「ちょうどある。私室で話そう、付いて参れ」

 二人の後には、カナエも付いて来なかった。

 后は先に部屋に入り、蘭も招き入れると、自ら鍵をかけた。

 后の私室は太陽王の正妃にしては、こじんまりとしていた。机と寝台が一台ずつ。家具の良し悪しは蘭には分からないが、そんな蘭から見ても、高級なものではなさそうだった。

「それは実家から持って来たんじゃよ」

 蘭の目線に気が付いて、夜の君が言う。

「私の故郷は美しいが、貧しい土地柄でね、領主の館も、領民の家もそんなに変わらなかった。ただ血だけは確かでね、王家の傍流で、高貴な血筋だった。それで正妃にと乞われたのだが、持参したのが机と寝台、あとカナエだけだったのだよ」

「女官長ですか?」

「彼女は私の乳姉妹だ」

 そう言って、后は寝台に腰を下ろした。そうされると、蘭が見下ろす形になってしまう。蘭が跪こうとすると、后は自分の横に座るよう促した。

 少し迷ったが、蘭は后の隣に腰を下ろした。

 后はニヤリと笑うと、蘭の方に身を乗り出し、蘭の唇に自分の唇を押し付けた。

 蘭は驚いて目を見開き、思わず夜の君を突き飛ばした。后はあっさり寝台に倒れ込むと、肩を震わせて笑っている。

「そして、生涯の伴侶でもある」

 笑いながら、后は言った。まだ仰向けのまま、両手を口元にあて、クックと笑い続けている。戸惑う蘭がおかしくてたまらないようだ。

「カナエだよ。カナエはわたしの愛人なんだ……わたしは女しか愛せないんだよ」

「え、でも」

 夜の君は兄王を生んでいる。

 蘭の疑問は予想されていた。夜の君は笑うと、天井を見上げたまま話し始めた。

「太陽王の正妃として入内する以上、何をしなくてはならないか、わたしにも十分分かっていた。例えそれがどんなに嫌なことでも、心に反していることでも、覚悟はできていた。実際、陛下とは閨も共にしたし、皇子は私が産んだ。男が愛せなくても、子どもは愛おしかった。自分はうまく振舞えていると思っていた。わたしの秘密はわたしとカナエだけで、死ぬまで隠しておけると思っていた」

 一気にそこまで言って、后は起き上がった。乱れた髪に手櫛を通す。

「皇子が生まれて、陛下が見に来られた時、陛下はとても喜んでくれた。髪は金色ではなかったのに、とても愛おしそうに皇子を眺められると、わたしの耳元でこうおっしゃった」

「つらかったな。もうわたしと閨を共にしなくて良いぞ」

 夜の君は遠い昔に思いをはせているようだった。やがて目線が蘭に戻ってきた。

「陛下は気づいておられた。その上で、わたしを責めることもなく、気遣って下さった」

「……なぜそのような話をわたしに?」

 太陽王が許してくれたからといって、公にできる秘密ではない。変わらず、夜の君とカナエが死ぬまで守らなければならない秘密だ。

「わたしは陛下に恩がある。今、陛下は壊されそうになっている……陛下を助けたい」

「壊されそうに」

 蘭は繰り返した。王がカエルム中毒になりかけていたことは知っている。しかし、壊れそうではなく、壊されそうにと后は言った。

 誰に?

「ウェンじゃよ」

 アランの部屋で会った、捉えがたい人物。そして心を抑えつけられる威圧的な声音。

「あの人はいったい……」

「あれも、アウローラと一緒じゃ」

「アラン様と?」

 聞き返したが、夜の君は返事をしなかった。

 寝台から立ち上がると、蘭に命じた。

「陛下の傍にいて、ウェンを見張れ」

「陛下の傍って、どうやって」

 太陽王は今、奥の部屋に籠りきりだと聞いている。

「主治医の助手として付ける。主治医は私と通じている。話は付けてある。後はカナエに訊け」

 后はもう扉に手をかけていた。取っ手を引こうとして、考え直したように、振り返って蘭を見た。

「頼んだ」

 それだけ言うと、蘭を残して、外に出ていった。代わりにカナエが部屋に入ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ