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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅴ 神意の行方
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Ⅴ 神意の行方 -5

 


 長い廊下の突き当り、部屋が奥まっているにも関わらず、うめき声は廊下の入り口まで聞こえてくる。

 部屋の中はさぞうるさいだろう。

 ウェンはうんざりした顔をしていたが、その目は期待に満ちていた。楽しみだ。

 主治医には話をつけてある。実際、医者には手を打つ手段も、根性もない。ついでに言うと、その情熱もない。

 見放された患者を、どうにかできるかもしれないと言うと、主治医は難しい顔をしながらも、明らかにほっとしていた。

「くれぐれもご内密に」

 いかめしくそう言われて、ウェンは生返事しながら、鍵を受け取った。

「あ、ご内密にするから、誰も入ってこないでね」

 自分の言いたいことだけはしっかり言って、主治医の耳元に口を寄せた。ぎょっとして思わず身を引こうとした老医者に、ウェンは囁いた。

「親子水入らずでいたいんだ」

 意味が分かった主治医は、何とも言えない顔でウェンを見たが、それには構わず、鍵を振り回しながら、部屋へ向かったのだ。

 声はいよいよ大きくなり、獣じみていた。

 鍵を回し、扉を開くと、眩しい外の明かりに目がくらんだのか、暗闇のなかにいたモノは部屋の隅っこで頭を抱え丸くなっていた。

 うなりながらも、身体は小刻みに震えている。

 ウェンは笑った。素敵な再会だ。

「やぁ、父上。ごきげんいかが」

 震えているモノがちろりと目を上げた。充血していて、紅い目の生き物のようだ。

「だ……だれだ」

 うなり声に紛れながら、それは言葉を発した。

「あ、まだしゃべれるじゃん」

 ウェンは嬉しそうに言うと、スタスタと近づく。それは後ずさりした。うなり声は大きくなり、今にもとびかかりそうだ。

「僕はウェンですよ、太陽王。僕のこと覚えていますか?」

「ウ……ェン」

 戸惑ったような声が漏れた。カエルムに侵された太陽王は、今ひどい禁断症状に陥っていた。

「貴方の息子ですよ」

「……?」

 戸惑った太陽王の目が、だんだん怒りに代わっていった。

「う…嘘つきめ」

 声を絞り出すと、今度は明らかに威嚇のうなり声を出す。ウェンはため息をつくと、懐から何かの粉を出した。

「これ、なーんだ」

 即座に太陽王がとびかかった。ウェンが身をひるがえすと、王は勢い余って、反対の部屋の壁に激突した。

「そう、カエルムです」

 ニッコリして、ウェンは言った。

「父上が苦しんでいると聞いて、優しい息子が持ってきましたよ」

 王は荒い息をしながら、ウェンの様子を窺った。襲って簡単に取れないと踏んだらしい。王の額は先ほどの壁との衝突で、皮膚が裂けて血が流れていた。

「僕のことを思い出したら、あげますよ」

 王は泡を吹いていたが、震える声で言った。

「ウ、ウェン。わ、わが息子」

 ウェンはニッコリ笑って、粉を差し出した。

「どうぞ」

 王ははいつくばって近づき、カエルムに手を伸ばす。

 その瞬間、ウェンは王の腹を思いっきり蹴飛ばした。

 グエッとつぶれたような声を出して、太陽王はまた壁まで吹っ飛ぶ。鳩尾を蹴られ、身体を二つに折ったまま、のたうち回っていた。

「嘘をつくな」

 ぞっとするような声を上げて、ウェンは王を見下ろした。丸まっている王をめちゃくちゃに蹴りつける。王はただただ体を丸めて、身を守った。うめき声は、その内すすり泣きに変わった。

 ウェンは蹴るのを止め、じっと王を見下ろした。

 そうして黙ったまま、テーブルの上のグラスにカエルムを入れ、水差しの水を注いだ。

 丸まっている王を抱き起すと、王は震えておびえていたが、抵抗はしなかった。

 カエルムの入ったグラスを口元に持っていくと、王は驚いた顔をし、疑るような表情を見せたが、抵抗は出来なかったようだ。

 グラスを奪うように掴むと、喉を鳴らして一気に飲み干した。むせて、激しく咳込む。

「ほら、そんなに慌てると、吐いてしまいますよ。今日はこれだけしか持ってきていないのに、貴方が困るでしょう?」

 その声音は先ほどとは別人のように、優しくあやすような声だった。王をよしよしするように、髪をなでる。

「聞いたかもしれませんが、もうカエルムはガザから入ってきません。この国にあるのは、僕が持っている分だけです。大事に使いましょうね」

 父親をいたわるような顔をして、付け加える。

「僕の言うことを聞いて、いい子にしていたら、また持ってきます」

 そう言って、王が掴んでいたグラスを取り上げると水ですすぎ、粉を包んでいた袋を懐に入れた。

「まず、ドムの責任をカロイに取らせてください。後処理は僕がします」

 そう言って、一枚の紙きれを取り出す。

「はい、これは書類です。頭がはっきりしているうちに、サインを」

 幾分頭のはっきりしてきた王は、動こうとはしなかった。

 ウェンは面倒くさそうにため息を付き、紙をクルクルと丸めた。

「では、気が変わったら、ご連絡ください」

 そうして、出て行こうとする。あ、と声を上げて、振り返った。その顔は笑顔だった。

「壊れる前に、言ってくださいね、父上」


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