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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅴ 神意の行方
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Ⅴ 神意の行方 -4

 


  薄暗いユアナの部屋で、婚礼の舞は伝えられた。その動きはさほど複雑ではない。単純な動きの組み合わせがほとんどであった。難度であれば、豊穣の舞より数段易しい。

 ユアナによると、舞の美しさも重要だが、型通り間違いなく順番に舞うことが大切なのだそうだ。

「間違えてしまうと、無事に太陽神の元に行くことができないと言われています」

 凛よりアシュランの方が熱心なのではないかと思うほど、アシュランは真剣だった。十年後に伝えなくてはならないから、当然かもしれない。

 一回踊ったら、そのまま消えてしまうわたしとは違う。

 十年ぶりに人と接する興奮も、もうすぐ殺されてしまう恐怖も、ユアナからは感じられなかった。ただ淡々と任じられた使命を果たしているといった感じだった。

「あなたは怖くないのですか?」

 熱心に説明している横顔を見ながら、凛は不意にそう聞いてしまった。

 ユアナは戸惑ったように顔を上げながら、それでも質問の意味は分かったようで、静かに答えた。

「わたしはもう空っぽですから」

「え?」

 聞き返すと、ユアナはしっかり凛の顔を見て答えた。

「この十年間、私の中には婚礼の舞しか入っていませんでした。それを渡してしまえば、私はもう空っぽです」

 天に召されるのに、何の躊躇もありません。

「姫様は恐ろしいのですか?」

 逆にユアナが凛に質問したのを聞いて、アシュランがぎょっとした顔をした。

 凛は困ったように首を横に振った。

「それが分からないのです……でも、皆の為にも、晴れ晴れした気持ちで、その日を迎えたいと思います」

  ユアナは頷いた。

 凛はそんなユアナの顔を見て付け加えた。

「でも、そんなことを聞いてくれたのは、あなたが初めてです。なんだか……嬉しかった」

 はにかむ凛を見て、ユアナはふんわりと笑った。

「貴方様が巫女姫様に選ばれた理由が、分かる気がします」

 そうして、アシュランを見ると、いたわるように一つ頷いた。



「あー、くそっ。めんどくせぇな」

 男が悪態をつくと、隣にいた男があきれたように言った。

「自業自得ですよ。将軍がへまをするから、こういうことになるんでしょ。付き合わされる俺たちの身にもなってくださいよ」

 将軍と呼ばれた男は、面白くなさそうに酒をあおった。反対の手で、火のそばに刺してある肉を乱暴につかむと、大口を開けてかぶりついた。

 将軍の横に座って、文句を言っていた男はため息をつくと、森の隙間から見える星を見上げた。自分たちが居座っているせいか、普段いるはずであろう生き物の気配がしない。

 自分たちがいるところから、木が切り倒されてまっすぐ道ができていた。その先には険しい崖がそそり立っているはずだ。

 こんなところに道を造って、森の生き物たちはさぞ迷惑であっただろう。

「まぁ、気持ちは分かりますが」

 男の名は(かい)という。将軍の側近で、参謀として仕えていた。漁師町に生まれ、櫂などという名前を付けられた。漁師が嫌で、家族の反対を押し切って、首都に出て兵士となった。それが回りまわって、なぜかこの子どものような将軍の子守り役になってしまった。

「こんな森の中、こそこそ行って、たっかい崖を登ったら、また森抜けてやっと太陽国の端っこですもんね。絶対、ドム経由の奴らの方が早い」

 要は、国にいられたら邪魔だから、遠征にでも行ってきてくれと、厄介払いされたのだ。戻ってくるのが遅ければ遅いほどいい。あわよくば、死んでくれるとなおいい。

 今までも、そういう思惑が透けて見える命令を何度も下されたが、そのたびにこの将軍は、しれっと任務を遂行して戻ってきた。普段は粗相も失敗も多いのに、こういう時は悪運が強い。火をつけると燃え上がる。名は体を表す。将軍の名は(えん)といった。

 炎は骨までしゃぶって肉を食べきると、その骨を焚火に投げ入れた。

「まぁ、そうでもないさ。それにたっかい崖は登らなくていい。下から上に上がる道があるそうだ。聞いたのは昔だが、多分今もある」

「誰情報ですか?」

 櫂が疑わしそうに訊く。

「崖の上の村に住みついた、我が国の密偵だよ。村の女と結婚して、村の人間になっちまった。村と女を盾に脅されて、しゃべらされたんだよ」

「その男は?」

 結末を分かっていて、櫂は聞いた。

「そりゃ、殺されたよ。仕事の為に、女をだましたとでも言えばよかったのに、これ以上諜報活動をするのを拒んだそうだ」

 櫂は口笛を吹いた。

「純愛ですねぇ」

「相手の女にお目にかかれるかもしれないぞ」

 炎はニヤリと笑った。

「生きていればの話だがな」


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