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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅴ 神意の行方
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Ⅴ 神意の行方 -2

 


 近衛兵のドム滞在は、三週間に及んでいた。道の封鎖が予想より手間取ったせいだ。

 信と蘭はカエルムの回収後、すぐに都に戻るつもりであったが、信はコルに引き止められた。道の封鎖も手伝って行けというのである。信はもちろん、思いきり嫌そうな顔をしたが、上官の命令に背くわけにはいかない。

 蘭はカエルムの焼却処分に同行した後、一足先に都への帰途についた。


「やってられない……」

 蘭がいないとやる気が半分に落ちる信は、工事の図面を見ながら、ため息をついた。

 コルはこの工事の責任者のくせに、ほとんど顔を出さない。それどころか、この工事に限らず、町にも出たくないらしく、宿舎にこもってこそこそしている。

 まぁ、原因は分かっている。多分、あれだ。

 信はナナと別れた後、ドムでのことをコルに報告するため、近衛兵の宿舎に向かった。指揮官室で、コルと再会した時から、なんとなくコルの様子がいつもと違うとは思っていた。

 最後に信が放った言葉で、それは顕著になった。

「協力してくれたのは、ナナという男です。下の町で行き場を失った孤児たちを保護していたようですが、上に反発する仲間を取りまとめていました。具体的に、何かを仕掛けるところまでは至っていなかったようですが」

「……ナナ」

 コルの目の焦点が揺らめいた。ナナがあの捨て台詞を言ったからには、きっと二人には何かあるのだろうとは思っていた。

「ご存知ですか?」

「いや」

 コルは即答した。

「でも、ナナは知っている風でしたよ」

 信はナナが言った言葉を、そのままコルに伝えた。コルの目は見る間に見開かれた。その目が傷を負っていることを、信は見逃さなかった。

「ナナ……ナナライか」

「……ご存知でしたか」

 コルは一瞬躊躇したが、あきらめたように笑った。

「幼馴染だよ。親父同士が同じ仕事についていて、家も近かった。ガキの頃、いつもつるんでいた」

「隊長はドム出身だったんですね」

「親父は先頭を切って、二十年前反乱を起こした。ナナライの親父は無謀だと止めたんだがな、親父の意志は固く聞かなかった。結局、ナナライの親父も放っておくことができず、反乱に加わったよ。で、皆殺しだ」

「……」

「俺は、反乱軍の統領の息子だとバレず、鎮圧に来ていたアラン様の兄王様に拾われたのさ」

 コルはおどけて、両手を広げた。

「で、現在、近衛兵隊長様さ」

 コルは痛みを耐えるように、目を瞑った。

「そりゃ、裏切り者だよな」

 いつも堂々としていて、アランにふりまわされながらも、どこか達観しているようなコルの、こんな弱々しい姿は、信には新鮮だった。コルが抱いている罪の意識は理解はできるが、だからと言って、後生大事に一生抱いているべき物ではない。

「生きていて、良かったですね」

 信は冷たいともいえる表情で、それだけ言った。コルは怪訝な顔をする。

「あなたも、ナナも、命があって御の字ですよ」

 そう言って、部屋を出てきたのだが……それでも、隊長殿は表に出てこられないらしい。仕事を押し付けられた形の信のイライラは最高潮に達していた。

 それに、いつまでも知らんぷりはしていられない。一方的に道をふさいでしまったことへの住民の不満が、日に日に高まっていた。大商人の専横から解き放たれた喜びで、一時は手放しで王宮を讃えていたが、日常に戻っていくと、先々のことが心配になる。

 だからと言って、この道をふさぐ本当の理由、ガザの侵攻を安易に告げれば、人々は恐慌に陥るかもしれない。

 大体、なぜ俺がここまで悩まなくてはいけない?これはコルの仕事だろう。しかし、ガザの侵攻をドムの住人に伝える役目を、コルはやれるだろうか。因縁にがんじがらめにされている状態で。では、だれがこの恐ろしい役目をする?

 信はその可能性に思いがいたって、頭を抱えた。

「おい、都に帰ったんじゃないのか」

 聞き覚えがある声がして、顔を上げると、ナナが詰まらなさそうな顔をして、信を見ていた。

「……よく、咎められなかったな」

 一応、工事現場は近衛兵によって封鎖されている。

「都の人間の知らない抜け道なんざ、たくさんあるさ。それより、なんでお前がいるんだ」

「あんたの幼馴染が、使い物にならなくなって、俺がこき使われる羽目になった」

 ナナは大口を開けて大笑いをした。

 信は呆れたように、ナナを見る。

「おい、見つかるぞ」

「は、いい気味だ」

 ナナは頓着せず、満足そうに笑う。笑いながら、ポロリと言った。

「真面目なところは変わらんな」

「……そう思うんなら、協力してくれよ」

「協力?」

 冗談とばかりに、ナナが鼻を鳴らす。

「道の封鎖への不満とガザ侵攻の発表。ドムの人間が協力してくれた方がいい」

 信が構わずしゃべる。ナナは疑わしいものを見る目つきで、信を見ていた。

「あんたらが勝手にやるから、不信がられるんだろ。俺たちは知らん」

「でも、お前たちの町だろう。ガザに滅ぼされても、また王宮のせいにするのか」

 ナナは目を剥いた。こいつ、と思わず掴みかかる。

「自分たちで乗り越えないと駄目だ。王宮は利用しろ。当てにしすぎると、切り捨てられるぞ」

 ナナはしばらく信を睨んでいたが、短くため息を漏らすと、手を離した。

「コルニクスと話をする。あいつはどこだ」

 信は立ち上がった。

「あの建物だ。案内しよう」

「二人で話したい」

 ナナがそういうのを聞いて、信は振り返った。鼻で笑う。

「ああ。俺も二十年ぶりの涙の再会など、見たくない」

 ナナも鼻で笑った。

「ナナ」

「なんだ」

「あんたたちはまだ、七歳のガキだった。何もできなかったよ」

 だからそう気に病むな。

「……分かってるよ」

 ナナがそう言うのを聞いて、信は歩き出した。


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