表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅴ 神意の行方
106/170

Ⅴ 神意の行方 -1

 豊穣祭が無事終わり、それまでの少し浮かれた雰囲気が収まったころ、凛は密かにセレネに呼ばれた。

 セレネ自ら凛の部屋を訪れ、付いてくるように促された時、凛は意外な気がした。セレネは凛が部屋の外に出るのを嫌がる。極力、巫女姫の部屋で用を済ませようとする。凛が勝手に、巫女たちの視察めいたことをするのは、セレネの監視の目を盗んでのことだった。

 そんなセレネが、自分を外に連れ出そうとしている。いつもとは違うと凛は感じ取った。

「アシュランだけついてきて下さい」

 セレネがそう言うと、巫女姫の世話をする他の巫女たちは、黙って頭を下げた。

 巫女姫の部屋も神殿の中では奥の方であるが、セレネは更に奥を目指しているようだ。人の気配がしない廊下を、三人の足音だけが、不協和音のように響いていた。

 やがて小さな扉の前にたどり着くと、コンコンと控えめに扉をたたいた。

「はい」

 中から落ち着いた返事が聞こえると、驚いたことにセレネは鍵を懐から出し、鍵を回して扉を開けた。

 中には見たことがない巫女が坐していた。

「お待ち申しておりました、巫女姫様。ユアナと申します」

 そう言うと、両手をついて、深々と頭を下げた。その体はやせすぎてはいなかったが、全体に肉が落ちてほっそりしていた。一番目を引くのは、その肌の色の白さである。長年太陽の光に当たっていない、不健康な白さ。

「この者は、先代巫女姫の世話係であった者です。先代巫女姫と共に婚礼の舞を習い、次代の巫女姫に伝えることが役目の者です。巫女姫様とアシュランは、本日よりユアナから婚礼の舞を習って頂きます」

 淡々とセレネは説明した。

「私もですか……」

 アシュランは考え込むように、言った。

 セレネは頷いた。

「巫女姫の一番近しい者が、婚礼の舞の伝承役となるのです。あなたには次の巫女姫に舞を伝えてもらいます」

「でも、わたしは舞は得意ではありません」

 アシュランは首を横に振りながら、困惑したように言った。

「別に出来なくてもいいのです。型さえ覚えていてくれれば」

 姫様はそういうわけにはいきませんが。

 セレネが言うのを、凛はあまり聞いていなかった。さっきから気になることがあるからだ。

「わたしはこの巫女の顔を、初めて見たわ」

 巫女は何十人もいるが、凛は人の顔を覚えるのは割と得意な方だ。しかも、名前が分からないなどではなく、この人は見たことがないと思った。

 セレネはため息をついた。

「婚礼の舞は秘舞です。巫女姫と伝承役にしか伝えてはいけないんです。ですから、婚礼の儀が終わった後、次の巫女姫に婚礼の舞を教えるまで、伝承役はこの部屋に閉じこもります」

 先ほど回した鍵。閉じ込められるのだ。

「そして、秘舞を伝え終わると、その命も役目を終えるのです」

 最後の説明を付け足したのは、ユアナであった。

  アシュランが身じろぎするのを、凛は感じた。

「そんな……どうして」

 凛は唇を噛んだ。わたし一人が受け入れても、まだ人の死が必要なのか。アシュランは婚礼の儀の後、十年ここに閉じ込められ、その後殺されるのだ。

 これが信仰か?本当に神を崇めるということなのか?

 凛は怒りで、胸が苦しくなった。

 その時、凛は手をそっと握られるのを感じた。はっとして横を見ると、アシュランの顔があった。

「大丈夫」

 それは昔のアシュランの声音だった。巫女姫にではなく、凛に話しかけるときの、柔らかい弾んだような声。

「大丈夫ですよ」

 アシュランは微笑んだ。そこには一片の躊躇も見当たらなかった。

「一緒に婚礼の舞を習わせてください」

 あなたと共に……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ