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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅳ 不穏
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Ⅳ 不穏 -23

 


「おかえりなさいませ」

 女は館の入り口にきちんと正座をし、手をついて館の(あるじ)を出迎えた。

「うん、ただいま」

 主は軽く頷くと、妻の横を通り過ぎた。

「しばらくこちらにいられますの?」

 妻は立ち上がり、主の後に続く。

「あっちの店はもう畳んだ。もう、ずっとこっちにいるよ」

 妻の顔に喜びの色が広がった。

「そうそう」

 主は屈託のない顔で妻を見た。年齢はもう三十を超えているのに、その顔のせいで、下手をすると十代に見えることもある。

「アリサも今日からここに住むよ」

 たちまち妻の顔が歪んだ。妻は慌てて、表情を取り繕う。主はそんな妻の顔を興味深そうに見ていた。

「かしこまりました。すぐに部屋を用意いたします」

「うん、よろしくね、リュシオン。どちらも僕の愛しいモノだから、仲良くしてね」

 足早に去っていく妻の後ろ姿を、およそ愛情とはかけ離れた目で主は見送った。

 執事に上着や手袋を渡すと、主は居室の長椅子に寝そべり、思いっきり体を伸ばす。

「うーん、やっぱり自分の家はいいねぇ」

「ウェン様」

 執事が恭しく声をかける。

「何?」

「明日のご予定はいかがなされますか」

「少しは休ませてよ」

「申し訳ありません」

 執事が深々と頭を下げる。

「明日は兄上のところに行くよ」

「かしこまりました」

 もう一度、頭を下げると、執事は部屋を出ていった。一人になったウェンは急にクスクスと笑い始める。

「それにしても、あの甘ちゃんにしては、仕事が早かったなぁ」

 自分はその一歩前を行っている上での、発言だ。前回会った時は、まだ六歳だった。その頃から、自分で自分を痛めつけるのが好きな子どもだった。

「十六歳かぁ、大きくなったなぁ」

 天井を見上げたまま、独り言ちる。

「あの女の子、僕も欲しいなぁ」

 思い浮かべるのは、ミランダで北の大商人の息子に言い寄られていた女。あの()が北の息子を蹴り倒すさまを、ぜひ実際に見てみたかった。

「あの()がうちの館に来てくれたら、嘘でも抵抗してあげたのにな」

 東の方に行っちゃうなんて、残念。

 クツクツと一人で笑う姿はかなり不気味だった。扉をノックする音がし、妻より少し若い女が入ってくる。これまた、丁寧に頭を下げた。

「西のお館様」

 呼びなれた主の呼び方で呼びかけるのを、ウェンは遮った。

「もう、西のお館様じゃないよ、アリサ」

 黙って、アリサは頭を下げ続ける。

「ウェンでいいよ」

「ウェン様、ただいま到着いたしました。これからも、どうぞよろしくお願いいたします」

「うん、よろしくね」

 最近まで西の大商人と呼ばれていた青年は、楽しそうに笑った。

「都もきっと楽しいよ」


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