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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅳ 不穏
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Ⅳ 不穏 -22



 西の館の近く、ナナは倉庫の隣の屋根に身を潜め、倉庫の中を検める近衛兵たちを眺めていた。

ナナは西の大商人の館に潜入したものの、ほとんどやることはなかった。倉庫を見張っていたが、館の者は誰も何も取りに来なかったからだ。あきらめたのか?不審に思って、自分が忍び込んだが、カエルムはきちんとそこに保管してあった。

 しかし……量が少なかった。

 西の大商人はあまりルートを開発できていなかったのか?北や東に比べて、やや存在感の薄い主の容貌を思い出して、ナナは頭をひねった。

 考え込んでいると、肩をたたかれて、はっと振り返る。身構えるが、シンとランであった。

「ここは抵抗がなかったようだな」

 動き回る近衛兵たちをじっと見て、信は言った。

「北と東はうまくいったか?」

 ナナが訊くと、信も蘭も当然というように頷いた。

「あいつらは大丈夫かな」

 荷馬車を襲いに行った連中を気に掛ける。色々こそこそと嫌がらせはしたが、襲撃などということは、実は初めてだった。

「ああ、国境近くで荷馬車を襲撃する事件があったと、さっき報告があった。略奪されたところで、近衛兵が発見した。荷馬車の積み荷はカエルムで、近衛兵が早速押さえた」

 信はそこで言葉を切った。こいつわざとだと分かっていても、先を促さずにはいられない。

「で?」

「賊は全員、生きたまま捕らえられた。ところが近衛兵が積み荷を検めたり、運び屋を尋問したりしている間に、みんな逃げてしまったらしい」

 信はやれやれとため息をついた。

「縄がゆるかったんだな」

 そうして、ナナを見る。そこにはねぎらいの顔があった。

「近衛兵は忙しいから、もう賊を探すことはないと、帰ったら言ってやれ」

「お前たち、王宮の人間だったんだな」

 出し抜けにナナが言った。表情はむしろ無表情だ。

「ドムの人間は上の連中ともかく、下の連中は王宮が嫌いだ。ドムがこうなってしまった原因だからな。今回のことは感謝するが、お前たちはもう都に帰れ。これ以上、この町に引っ掻き回すものはないぞ」

 蘭は少し驚いた顔をしていたが、信は表情を変えなかった。

「ナナ」

「なんだ?」

 威嚇するようにナナが返事をする。

「近衛兵たちが、今カエルムの道を封鎖している。いずれ埋めるつもりだ」

 ナナは眉をひそめた。カエルムは害であったが、あの道はドムの流通を大いに潤してくれる。たいした産業もないドムが立ち直るには、あの道が必要だ。

「なんだって、埋める?別にカエルムが入ってこないように、関所を設ければ済む話だ。あの道を造った理由は悪かったが、道自体が悪いわけではない」

 しかも、近衛兵がそれを強行するとなると……

「王宮への反発が強くなるぞ」

「そうも言っていられないんだ」

 信は静かに言った。

「ガザが戦の準備をしている。あの道を通って、こちらに攻めてくるぞ」

 ナナは一瞬ふらついたが、両足で踏みとどまった。予想していなかったわけではない。カエルムの道はガザの侵攻の道になりうる可能性があると、ナナも思っていた。

 今か、と思った。やっと長年の念願がかない、これから町を元に戻そうというこの時なのか。

「違うな」

 ナナが何を考えているのか分かって、信は冷たく言った。

「ガザが攻めてくるから、王宮はお前たちの要求を、こんなに早く呑んだんだよ。第一の目的はカエルムの道の封鎖だ」

「信……」

 蘭が信の名を呼んで、たしなめた。不思議な響きで呼ぶのだな。ナナは冷えていく心の中で、思った。

「帰ろう、蘭」

 信はするすると屋根を降り始めた。

「おい、シン」

 ナナが呼び止めると、信は立ち止まって振り返った。

「近衛兵を率いてきたのは、コルニクスという男か?」

 信は片眉を少し上げた。

「知っているのか?」

 ナナは笑って言った。

「ああ、有名だからな。そのコルニクス殿に伝えておいてくれ。この度のご助力、大変感謝いたします、と。あと」

 ナナの顔にあざけるような表情が浮かんだ。

「裏切るのなら、せめて、名前を変えろとな」


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