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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅳ 不穏
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Ⅳ 不穏 -21

 

「東の御館様!」

 東の大商人である男は、日ごろから騒々しくされるのが大嫌いである。北の大商人がカエルムの新しい取引ルートを開拓したときも、苦々しい顔はしたが、騒ぎ立てなどしなかった。その馬鹿息子が、女にひどい目にあわされ、半裸でのびているところを、東の大商人の息がかかったミランダの店員に発見されたと聞いた時も、ほくそ笑みはしたが、大笑いはしなかった。

 苦々し気に、大声を放った男を睨みつける。しかし、部下の男は黙りはしなかった。主人の怒りを買っても、伝えなくてはならなかったからだ。

「王旗を掲げた一隊が、こちらに向かってきます」

「王旗だと?」

 確かに急用だ。だが、王はこちらの権限を認めている。カエルムで釣り上げた王が、そうそう気を変えるとは思えないが。

「誰か探らせに走らせたか」

「はい、太陽王からの使者だそうです」

 主人は眉間にしわを寄せた。

「使者の名は」

「近衛兵警備隊長コルニクス殿です」

「コルニクス……王太子の犬か」

 主人の顔に怒りが走り、さすがの部下も身を縮こまらせた。

「おい、カエルムを他の場所に移せ」

 言われて、部下は逃げ出すように走って行った。


「おい」

 部下の男は近くにいた女中を呼び止めた。女中は返事をし、振り返る。面倒な用事は止めてくれよという表情が、ありありと顔に出ていた。男は忌々しく思いながら、命じる。

「三番倉庫に人手を集めろ。急に荷物の移動をしなくてはならなくなった」

 三番倉庫にカエルムが保管してあることは、屋敷の中でも一部の人間しか知らない。外側だけでは、中に何が入っているか分からないのだ。何も知らない下働きに運ばせても、何を運んでいるか知ろうともしないだろう。

 男は仲間に告げに行こうとして、止めた。ただの荷物の移動だ。自分一人でも問題はない。

 男は鍵を取り、三番倉庫に向かった。女中に指示して、いくらもたっていない。まだそんなに人は集まっていないだろう。場合によっては、自分も人集めに走った方がいいかもしれない。

 しかし、倉庫に着くと、かなりの人が集まっていた。女中、庭師、料理人、下僕。男は倉庫の入り口に先ほど命じた女中を見つけた。褒めてやるつもりで、顔をほころばせる。

「こんなに早くよく集めたな」

 女中は微笑んだ。先ほどは気が付かなかったが、なかなか美しい顔をしている。

「ええ、そう命じられると思っておりましたので」

「?」

 女中に少し見とれていた男は、女が何と言ったか聞き逃した。怪訝な顔をする男を無視して、女中は男に近づいた。するすると近づくと男の持っている鍵を取り上げた。

 不意だったので、あっけなく男は鍵を手放してしまった。

「な、何をする」

 さすがに気色ばんだ男に、女は一枚の紙を見せた。そこにあるのは……

「王太子の紋章」

 あまりのことに、男は顎をガクガクさせて、わなないた。蘭は微笑んで、言った。

「東の御館さまには、カエルムの移動はすべて終わったとお伝えください」

「な、なにを……」

「でないと、あなたが一番に捕らえられますよ」

 蘭は言い聞かせるように言った。

「そ、それが本物だという証拠でもあるのか」

 男は紋章を指さした。

 蘭はため息をついて言った。

「さぁ、信じなくても構いません。あなたがあくまで御館さまにご注進に行くと言われるのでしたら、わたしはあなたを止めなくてはなりません」

 冷たく微笑んで、男を見る。信に似てきたかもしれない。

「先日、北の大商人様のご子息が、ひどい目に会ったのをご存知ですか」

 男の顔は青くなった。北の馬鹿息子は、ミランダに現れた美しい女にカエルムを与え、手籠めにしようとしたところ、返り討ちにあったらしい。発見された時は、泡を吹いて、白目を剥いていた。

 男は目の前の女を見た。美しい女。

「あれは、お前が?」

 囁くように言うと、蘭は顔をしかめた。

「あの男、本当に気持ち悪かったです」

 そう言うと、右足をくいっと上げてみせた。

 殺気を感じて、男のこめかみを汗が伝った。

「わ、分かった……」

 男は自分を守るように、両手を突き出した。

「言うとおりにする」


 使者である近衛兵一団を、北、東、西の大商人である三家の長は、上流の町の中央にある集会所で出迎えた。集会所といっても、まるで宮殿のように華美で、ドムの城と呼びならわされていた。

 そこで首を垂れ、上座に立った使者から通達を聞かされた長たちの様子は三者三様だった。北の大商人の顔は見る間に青ざめ、気を失わんばかりであった。東の大商人は顔を強張らせながらも、自分の勘と行動を自賛しているようだった。西の大商人は終始無表情で、粛々と通達に聞き入っていた。

 使者の読み上げが終わると、三名とも深々と平伏した。どんなに不平不満を思おうが、公式にそれを表すと、あっという間に首が飛ぶ。とりあえずは、受け入れるしかない。

 ただ北の家の者は、直ちに倉庫に向かって走った。カエルムを取り上げられたら、大損だ。

 しかし、そこはすでに近衛兵に抑えられていた。

 こうして、ドムの人々を苦しめたカエルムと、大商人の専横は終わりを告げた。近衛兵はカエルムを全て没収すると、そのままドムの町とガザ帝国をつなぐ、カエルムの道を封鎖した。

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