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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅳ 不穏
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Ⅳ 不穏 -20

 


 崖にぶら下がっていたアランが、谷底から吹き上げる風に煽られて、大きく揺れた。アランの手がかかっている崖の突起はあまりにも頼りなく、指がわなないて、今にもはずれそうだ。

 谷底からは亡者の叫び声やすすり泣きが聞こえてくる。その中には、よく知った母の叫び声も混じっていた。父王の際限ない怨嗟の声も聞こえてきた。谷底は、いや、アランがぶら下がっている崖の入り口にさえも、陽の光は届かない。

 アランの髪の色は金が抜けて、だんだんと白くなっていった。

 蘭は慌てて崖の縁に駆け寄り、アランに手を伸ばす。見上げたアランは弱々しくほほ笑んだが、もう片方の手を伸ばそうとはしなかった。

「おれ、あそこに行かなきゃ」

 谷底に目線を送って、アランは言った。

 蘭は激しく首を横に振り、懸命に崖を掴んでいるアランの手に、手を伸ばそうとした。何か言わなければと思うが、言葉が、声が出ない。

「蘭、一緒に来てくれる?」

 アランがそう言ったのが聞こえた。



 蘭が跳ね起きると、女中部屋の一室だった。六人部屋であるが、他の誰も目を覚ました様子はなかった。叫び声は上げなかったらしい。よかった。蘭はほっと息を漏らした。

 あの夢はアランの夢だ。こちらからの早馬がついて、手紙を読んだのだろう。奈落の底には太陽王もいた。

 アランは父王を断罪した。

 もうすぐ、ドムを糾弾する使者が来る。

 蘭は自分の肩を両腕で抱いた。

 アラン……

 誰か彼を助けて。



「来た」

 ナナたちの顔を見ると、信は持っていた手紙を軽く上げて見せた。

「専売特許は取り消される。カエルムの取り締まりも行われるそうだ」

 ナナたちはどよめいた。信じられないという顔をしている。それはそうだろう。長年、動かすことができなかった事態が、信たちと会って四日で動いたのだ。

「そ、そんな、簡単に……」

 誰かが思わず言ったのを、信はチラリと見た。

「簡単ではないよ。ここからが勝負だ」

 信はぐるりと男たちを見回す。

「まだ、上の連中はこのことを知らない。あと数時間で、正式な使者が書状をもってやってくる。それまでにカエルムを抑える。ナナ、カエルムが入ってくる日時と保管場所は分かった?」

「ああ、今日の午後らしい。保管場所は上流の町に三ヵ所ある」

 ナナは地図を広げた。北、東、西の大商人の館近くに印がされている。

「今日の午後か。使者とどちらが早いか微妙だな」

 信はじっと地図を見ると、指で何度かテーブルをたたいた。

「三ヵ所の保管場所、今日入ってくるのも、すべて抑えよう。使者に連絡しておくから、それまで持ち出されないように、俺たちが押さえておく。場所を変えられては面倒だからな」

 信は顔を上げ、ナナを見た。

「俺とナナとランで、上流の町三ヵ所を抑えておく。残りの者で、盗賊に見せかけて、入ってくる荷馬車を襲ってくれ」

 男たちは、顔を見合わせた。ナナも難しい顔をしていた。

「三人で三ヵ所って大丈夫か?」

「ああ」

 信は呆れたように言った。

「大体、他の奴は上の町に入るのも難しいだろ?」

「お前は大丈夫だっていうのか?」

 男の一人が、不満そうに言った。

「もう上の町で仕事を得ている」

「は?」

 信は持っていた鞄の中身を見せた。そこには石を削る道具が一式入っていた。

「俺、石工なんだ」

 こんな物騒な石工がいてたまるか。皆が呆気に取られている中、ナナはあることに気が付いた。

「ランはどこだ?ずっといないな」

「東の奴のところで働いているよ。動いてくれる仲間も、たくさん増えたって、さっき報告があった」

「……お前たち、本当に何者だよ」

 相手が誰でも利用しようと、不問にしていた疑問を、ナナは思わずまた訊いてしまった。

「だから、石工と女中」

 信はニヤリと笑って言った。最初に会った日の微笑みと同じ微笑み。ナナはぞくりと背中が泡立った。

「よし、行こう。早くしないと、間に合わないぞ」

 信はそう言うと、先だって部屋を出ていった。


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