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太陽の妃  作者: さら更紗
Ⅰ 針森の村
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Ⅰ 針森の村 -1

「ねえ、(ラン)。『はなまつり』の日は誰と一緒だったの」

 鳥を射ようと、木の上に潜んでいたとき、もう我慢できない、といったふうに、(りん)が話しかけてきた。

 獲物をまちぶせして潜んでいるときに、しゃべるなど言語道断である。

 しかし、凛の気持ちも分からないでもなかった。

 はなまつりというのは、十六歳の男女を祝うお祭りで、十六になる年のこの日から、男女の契りをしても良いことになっている。

 別に祭り当日に、契らなくてもよいのだが、祭りの幻想的な雰囲気も手伝って、祭りの日に意中の人と事に及ぶのが、習いになっている。蘭も例に漏れず、お気に入りの相手と契っていた。

 ひとつ年下で、まだ乙女である凛は、興味津々で、聞きたくて仕方ないのだろう。蘭自身も「はなまつり」の直前までは、期待と好奇心で、凛のように目をきらきらさせて、年上の娘たちに話をせがんでいた。

 しかし実際は、痛かったというのが、正直なところである。未経験の二人がするのだから、上手いわけはない。

「しゃべっていると、鳥が寄ってこないよ」

 そっけなく言って、蘭は背中の矢筒から矢を一本抜き取った。五本先の木の枝に、茶羽(チャバネ)鳥が止まっている。凛も動きを止めた。振り返るだけで、音をたててしまう。

 矢をつがえ、放つ。シュンッと音がして、鳥がどさりと落ちた。

「人の声にも気が付かないなんて、まぬけな鳥だったわね」

 手早く血抜きをする蘭の横で、凛はのんきにしゃべりながら、手を合わせた。命をくれた獲物に手を合わせるのは作法だが、これでは馬鹿にしているのか、敬っているのか分からない。

「あんたはしゃべりすぎ。そんなことを言っている暇があったら、獲物を探しなさい。帰れないよ」

 蘭は妹に小言を言いながら、鳥の足を縛った。

 凛は肩をすくめたものの、素直に姉の忠告を聞き、口をつぐんだ。

 蘭の狩りの腕も悪くはないが、凛はもっと上手い。矢も正確だし、なにより目がいい。

 蘭の視界をよぎったものに、凛はなめらかな動作で矢を放った。矢が空気をさく音がして、どさりと獲物が落ちた。切れ長の美しい目が、にやりとさらに細くなった。

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