第8話 世界の形
200年前、10の種族による戦争が始まった。
人族、長耳族、巨人族、人狼族、竜人族、
吸血族、小人族、鳥人族、魚人族、食屍族。
他種族の領地を奪うため、あるいは他種族を奴隷・家畜にするため、戦いは熾烈を極めた。
しかし戦争が始まって110年経過した時、転換点が訪れる。
人族、長耳族、竜人族、小人族の同盟である。
この同盟軍は“四族同盟”と呼ばれ、圧倒的な戦力で他の種族を打ち倒していった。
結果、世界に三つある大陸の内、最も豊かなこの〈カーバンクル大陸〉を“四族同盟”は獲得した。
鳥人族は空に国を築き、魚人族は海底に国を築いてそこで暮らすようになり、
巨人族は年中猛暑である〈バーンフォード大陸〉へ拠点を築く。彼らは暑さに強いため、猛暑地帯でも問題なく暮らせるのだ。
そして人狼族、吸血族、食屍族は毎日のように災害が起きる〈崩棄大陸〉へ追いやられ、戦争は終結した。
現在はそれぞれがそれぞれの場所に落ち着いており、小さな戦争はあれど大規模な戦争は起きてない。
ここ〈カーバンクル大陸〉には“四族同盟”に参加した四種族が今でも一緒に暮らしている。
これが、田舎者の僕でも知っている世界の形である。
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僕は森の中を歩いていた。
〈ノースバース〉の南には長い森がある。僕がいるのはその森だ。
〈レキ村〉は〈ノースバース〉の北側にあるため、反対側に位置するこの森は実は一度も来たことがない。
この森を抜けた先に多くの人が集う〈ネフラン〉という街があり、僕はその〈ネフラン〉を目指していた。
勘でしかないが、ハムレットはもう〈ノースバース〉付近にはいない気がした。奴はあまり同じ場所に留まるタイプではないだろう。復讐者を作るため、世界中を旅しているに違いない。
ちなみに今の僕の目的はハムレットを見つけることじゃない。それはまだ先の話だ。
ハムレットの捜索を始める前に、まずやるべきことが2つある。その2つを実行するためには〈ネフラン〉に行かなければならないのだ。
段々森が深くなってきたな……。
この辺りには熊や猪といった危険な生物は居るが、常軌を逸した化物は居ないはず。野盗の類が出たという情報もないため、必要以上に警戒する必要はない。
怖いのは森の先だ。
まったくの未知の世界が森の先にはあるだろう。
僕にとってこの森は門だ。外界と僕の世界を遮断する門。その門をいま越えようとしている。
恐怖と、好奇心と、罪悪感。
ヒカリと一緒に見るはずであった外の景色を僕1人で見るのだ、罪悪感もあるさ。
僕は森を抜ける。
森を抜けると巨大な岩壁と洞穴が正面に現れた。岩壁は見上げても頂上が見えないほど高く、横も見通せないほどの長い。
森の先にはこんなものがあったのか。
〈ノースバース〉からは見えなかったな。
「この洞穴に入ればいいのか?」
僕は洞穴に入る。
洞穴に入るとすぐ人工的に作ったであろう石階段があり、僕は階段を上がっていく。
長い階段だ。暗闇の中50段ほど登ると光が見えた。あそこが出口だろう。
僕は階段を上り切り、洞穴から出る。
「――」
洞窟を抜けた先は丘だった。緑が広がる丘。
丘から見える景色には城郭都市・火山・紫の森。都市の側には海も見える。
雪はなくなり、野原が丘の下に広がる。
火山とか初めて見たし、あんな巨大な街も初めて見た。あそこが〈ネフラン〉だろう。
広大な風景を前にしてテンションが上がってしまう。
「落ち着け」
勘違いするな、僕は冒険するために外の世界に来たわけじゃないんだ。
ただ、どうしても思ってしまう。
――ヒカリに、この景色を見せてあげたかったな。
左眼に微かに映る悲劇が、『感傷に浸っている場合か』と背中を叩く。
「……行こう」
丘をおりて、僕は野原の道を歩き始める。
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城郭都市〈ネフラン〉。
〈ノースバース〉直近の街で、話だけなら幾度か聞いたことがある。
海に隣接しており、船による他都市への移動が簡単らしい。交通の便が良いというわけだ。そのおかげで多種多様な娯楽、店に溢れている。
〈ネフラン〉から〈ノースバース〉に観光に来る人間も少なくなかった。〈ネフラン〉から来た人間は良くも悪くも騒がしかったな。
「待った」
〈ネフラン〉の恐らく北門の前で僕は門番の男に呼び止められた。
「君、どこから来た? はじめて見る顔だ」
「〈ノースバース〉から来ました。明後日父が誕生日で、父へのプレゼントを買いに来ました」
目の前の門番は40程の男。
結婚して僕ぐらいの子供が居る歳。こういう答えが好まれるだろう。
「ほう! 父親のため、あの森を抜けてわざわざ来たのか。オレの息子も君と同じぐらいの年頃だが、見習わせたいな」
驚くほどにドンピシャだったな。
「よし、通っていいぞ」
あっさり通してくれた。
そもそも検問なんてほとんど建前で、明らかに怪しい人間以外は通しているのだろう。
「ありがとうございます」
僕は頭を下げ、門を越えて街に入った。




