第23話 主人公
耳に突き刺さる歓声。
僕は手から剣を滑り落とす。
「なんと試合時間は9秒! た、最速記録です!! まさに閃光、瞬きを許さない瞬・殺・劇だッ!!」
【リヴェル】と【青薔薇】を一気に使ったからか、
戦いに勝利して緊張の糸が切れたからか、
右手首の激痛からか、
あるいはその全てかわからないが、
目の前が真っ暗になり、全身から力が抜け……僕は気を失った。
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「いいね、彼」
第三師団師団長ジェンガは柵に肘を置いて言う。
「今の魔力出力は並みじゃないよ。これで魔法が使えたなら、うちに入れてもいいかもね」
ジェンガは隣の銀髪の少女に対して言ってるつもり……だが、少女は反応しない。
「なにか返してくれないかな? 独り言みたいになってるじゃないか」
「……同じ目をしてる」
ジェンガの隣、第三師団副団長のチェスは倒れているオセロを注視する。
「私と、同じ目だ」
そう言ってチェスは右眼の眼帯を触った。
「へぇ」
「話してみたい。彼と……」
「珍しいね、チェス……君が他人に興味を持つなんて」
ジェンガはチェスの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「でも駄目。騎士団員はトーナメントが終わるまで選手に声を掛けちゃいけないってルールだからね。スカウト戦争はトーナメントが終わってからってこと」
「……ケチ」
「僕が決めたルールじゃないって。大丈夫、彼と話す機会はあるさ。
――いずれ、必ず」
ジェンガとチェスは黒衣を翻し、VIP席から離れた。
観客席のマーカスは思わず立ち上がっていた。
立ち上がった観客は他にもいるが、マーカスの表情は他のどの観客とも違った。
「……主人公だ」
マーカスは小さく呟いた。
「オレが、オレが描きたかった主人公像は、まさに――」
マーカスの頬は僅かに赤くなっている。
目には少年の輝きがあった。
「どしたの? マーカス」
コロットの声で、マーカスはハッと我に返る。
「……なんでもない」
決闘場に新たに3人の〈竜聖闘技場〉の係員が現れる。
気絶したオセロが3人の係員によって運ばれていく。
「ん?」
マーカスはオセロを運ぶ係員を見て、眉をひそめ、舌打ちした。
「くだらねぇ真似しやがる」
マーカスは席を離れる。
「どこ行くのさ?」
「便所」
そうコロットに言って去ろうとするマーカスに、エミリアが耳打ちする。
「……手伝いましょうか?」
エミリアのそのセリフで、マーカスはエミリアも今の違和感に気づいていると理解した。
エミリアに対し感心の表情を浮かべた後、マーカスは「いらん」と断った。
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闘技場の決闘場に繋がる薄暗い通路を係員3人は歩いていた。
気を失ったオセロを2人の男が肩に抱えて、残りの1人の男が周囲を警戒している。
「おい」
マーカスが彼らの前に立ち塞がるように現れた。
「テメェら闘技場の係員じゃねぇだろ」
マーカスの視線は厳しいモノだ。
「そいつはオレの主人公なんだ。返してもらうぜ」
周囲を警戒していた男が前に出て弁解を始める。
「なにを言っている? 我々はれっきとした〈竜騎兵団〉のメンバーだ」
「なぜオセロを優先して運ぶ?」
マーカスの言葉に対し、男たちは言葉を詰まらせる。
「明らかに重傷なのはレイスの方だろ。なのにお前らは3人も居てレイスを放置しオセロを運び出した。それもコソコソとな」
「……」
「さっきオセロはマッキーと揉めたらしいな。お前ら、マッキーの部下かなんかだろ? マッキーに言われて弱ったオセロをぶっ殺せとでも言われたのか?」
係員たちは答えない。
「沈黙はYESと捉えるぜ。――【僕だけの秘密基地】」
マーカスは黒い球体を手元に出す。
それを見て、男たちはオセロを下ろし、戦闘態勢に入った。
3人の男はそれぞれダガーを出してマーカスに襲い掛かる。
「……オレが作者なら、こんなくだらねぇ戦いはカットだな」
――30秒後。
男3人は地面に伏し、
マーカスはオセロの肩を抱えて通路を去ろうとしていた。
「テメェらのリーダーに言っとけ。次つまらねぇことしたら、オレがテメェをぶっ飛ばすってな。言っとくが、三強なんざオレの相手じゃねぇんだぜ……」




