第22話 オセロvsレイス
「おやぁ、その右手どうしたのかしらぁ~?」
控室に入ってすぐに、レイスがにんまり面で近寄ってきた。
「……わかってるわよ。さっきマッキーと揉めた時、やっちゃったんでしょ?」
やっぱり、気づいていたか。
「なんのことかな?」
僕は笑顔で誤魔化す。
「ふふっ、強がっちゃって可愛い……」
「まもなく第二試合が終了します! 第三試合の出場者、オセロ選手は北のエレベーターに、レイス選手は南のエレベーターに来てください!」
控室の東西南北にはそれぞれ一階に繋がる階段とその傍にエレベーターと呼ばれるカラクリがある。
僕は北にある鎖に繋がれた石床の上に乗る。これがエレベーターだ。剝き出しの歯車群が壁沿いに見える。エレベーターの上には天井がない。鎖が巻かれた滑車だけが見える。
試合の時間になると滑車と歯車が動き、エレベーターが鎖に引っ張られ決闘場の端まで昇ってくのだ。
グオン! とエレベーターが駆動した。どうやら時間のようだ。
薄暗い地下控室から、光と熱気に溢れるステージまでエレベーターがゆっくりゆっくり昇っていく。
気温が上昇する。体温が上昇する。
グギギギギギという歯車の音が緊張を煽ってくる。
建物の内側から外側に出る瞬間、あまりの陽の眩しさに思わず目を閉じてしまった。同時に沸き上がる、
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」
怒涛の歓声。
エレベーターが止まり、僕と、反対側に居るレイスは決闘場に上がる。
決闘場の外にはこのヴリトラトーナメントの司会者であり審判の男の人が立っている。
「北より現れしは北国の餓狼、オセロ=カーディナルゥゥゥ!!!
南より現れしは『美しく勝つ』でおなじみ、麗剣レイス=ヴィーラァァァ!!!」
女性の歓声が耳に響く。どうやらレイスは女性人気が高い選手のようだ。
レイスは決闘場中央まで歩いてくると、右手を前に出した。握手を求める手だ。
「決闘の前には握手をするものでしょう?」
このトーナメントに握手をする決まりはない。
だけどここで断れば観客の心証は悪くなる。一応〈チドリ亭〉で働いている身分、店の印象が悪くなるようなことは避けたい。
レイスの下卑な狙いはわかるが、ここは乗る。
決闘場中央まで歩き、握手で応える。
レイスは握手のレベルではない力で、僕の右手をギュッと握り、さらに下に向けて手を捻ってきた。
「~~~~っ!!」
「くくっ!」
痛みから顔が歪む。
叫びたくなるほどの痛みが昇ってくる。僕が思っている以上に、手首の傷は深いのかもしれない。
「棄権するなら今のうちだよん」
そう言ってレイスは決闘場の端、指定位置まで下がった。
僕も指定位置まで下がる。
距離20メートル。試合開始まで、もうすぐだ。
---
観客席には多くの有名人が来ている。
VIP席。一番決闘場がよく見える席には多くの有権者がいるが、一際視線を集めるのは2人。
1人目は皇帝傘下、〈皇堂七鳳団〉第三師団師団長ジェンガ=ロバーツ。パーマ気味のピンクの髪に、丸眼鏡を掛けた男だ。耳には耳当てをしている。そして2人目は第三師団副師団長のチェス=キッヅ。右目を眼帯で隠した銀髪の少女だ。
VIP席には他にも〈竜聖闘技場〉を取り仕切るギルド〈竜騎兵団〉のリーダーのリュートンも居る。
観客席にはトーナメント参加者の面々が集まり始めていた。
三強マッキー=ギドロンは女を両脇に抱え観戦。
三強ハルマ=ラヴィット。容姿から察するに種族は人族。額に包帯を巻いており、金の髪をしている。着物をまとい、腰には刀を差している。マッキーと違い、彼の周囲には誰もいない。その狼の如き眼光が誰も近寄らせることを許さなかった。
三強フロディアス==フィリシカル。種族は竜人族。褐色肌に艶やかな黒い長髪、妖艶なボディラインは姉であるリュートンに匹敵する。彼女は部下の男たちにうちわを仰がせている。
「あのバカ……!」
観客席でオセロとレイスの握手を見ていたマーカスはすぐに異常に気付いた。
「どしたのマーカス」
ポップコーンを口にしながらコロットは問う。
「アイツの右手、包帯が巻いてある。そんでいま握手した時、表情が濁った。右手……多分、右手首を怪我してる」
マーカスはノールックでコロットのポップコーンに手を伸ばすが、コロットは平手打ちでマーカスの手を弾いた。
「えっ、やばいじゃん! 剣振れるの?」
「左手でも振れると思うが、このトーナメントに出れるレベルの奴らを左手一本で倒せるわけがねぇ」
「私のせいです……」
マーカスの後ろの席から赤毛の少女が言った。
「お前はたしか、闘技場のエントランスでオセロと話してた……」
「エミリアです。さっき、私が三強のマッキーと揉めた際、オセロが間に入ってマッキーを止めてくれたのです。多分、その時に手首を怪我しました……ごめんなさい」
「うへぇ!? オセロ早速ぴーんちじゃん! 勘弁してよ~、オセロが活躍すればオセロが働いているウチの店も繁盛すると思ったのに~」
「大丈夫。心配はいらねぇさ」
マーカスはオセロの表情を見て言い切る。
「見ろよアイツの目。覚悟を決めてる目だ。なにか面白れぇことを仕掛けるつもりだ」
マーカスは悪い顔で笑う。
エミリアとコロットは戸惑いの目線を交錯させ、そして静かに決闘場へ視線を落とした。
決闘場の外から審判が声を上げる。
「それではAブロック三回戦! オセロvsレイスを始める!」
審判の声は会場中に轟く。
エミリアは明らかに人間離れした声量に首を傾げる。
「凄い声……なにかの魔術ですかね?」
「違うよ。あの決闘場全体が拡声岩ってので出来てて、音を反響させやすくしてるんだよ。さすがに喋り声までは聞き取れないけど、大声はもちろん地面を砕く音とか魔術同士がぶつかり合う音とかすっごく立体的に聞こえるの~」
「そんな岩が存在するんですね……世界は広い」
審判が右手を振り上げ、振り下ろす。
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「試合開始!!」
――刹那、
僕は審判の合図と共に飛び出した。20メートル先にいるレイスに向かって突進する。
一切防御の構えはしておらず、あまりに無鉄砲な突撃だ。傍から見ればな。
「そんな捨て身の攻撃、対処するのは容易いわ!」
僕は背から剣を取り、両手で握る。
「【リヴェル】!!」
僕は薄紅色の反射壁を目の前に展開した。
「【リヴェル】ですって……? たしか、受けた衝撃を跳ね返す魔術!!」
僕はまだ、黙唱しながら戦闘することはできない。つまり戦闘が始まれば魔術を使うのは難しい。
だが一度に限り、その弱点をカバーできる。
――試合の始まる直前に、黙唱を終えればいいのだ。
試合開始一発目に限ってなら、魔術を使える。
「【グラッセ】!!」
レイスは20に及ぶ氷の礫を飛ばしてくる。
しかし反射壁が氷の礫を跳ね返していく。
「硬い……!」
【リヴェル】はあの本にあった99の魔術で一番相性が良かった魔術、生半可の魔術攻撃じゃ崩れない。
レイスは鞭を抜き、跳ね返った礫を鞭で弾く。
その隙に、
僕は剣の間合いまで距離を詰めた。
剣は蒼き魔力を纏う。
防御の暇は与えない――!!
「え? ちょ、待った――」
「【青薔薇】ァ!!!」
蒼き花びらが散る。
レイスは腹に斬撃を受け、ステージ外の壁まで捻じり飛んだ。
観客は4秒ほど静まり、はち切れたように叫び出した。
「し、試合終了ーー!!! 勝者オセロ=カーディナルゥゥ!!!!」
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