第21話 トーナメント開催!
闘技場の決闘場中央に、竜人族の女性が立っていた。
――リュートン=フィリシカル。
〈竜聖闘技場〉のオーナーである。
恰好はビキニ水着に腰巻のみで、非常に露出度が高い。
さらに非の打ち所がない褐色の美貌も相まって彼女が現れた瞬間、男の口笛の嵐がステージに降り注いだ。竜人族の特徴である角も牙も鱗も控えめで人族の目から見ても美しい体だ。
「これより〈竜聖闘技場〉百周年を記念したトーナメント、ヴリトラトーナメントを開催する!!」
歓声が上がる。
ステージには彼女の他にトーナメントの参加者が並んでいる。
参加者たちは手を振って歓声に応える。
「おーっ、間に合ったか」
紺色の髪の男――マーカスが観客席に姿を現す。
「あ! 遅いよマーカス!」
〈チドリ亭〉のウェイトレス、コロットが最前列の席からマーカスに言う。
コロットの他にも〈チドリ亭〉で働いているウェイター、ウェイトレスが最前列に集結していた。弁当を売りに出てる店長の姿だけない。
「うっかり二度寝しちまってなー。でもまだ開会式だろ? オセロは3試合目なんだから、余裕あるじゃねぇか」
マーカスはコロットの隣の空席に座る。
「あれ? つーか……」
マーカスはステージ上の参加者を眺めて、違和感に気づく。
「オセロいなくね?」
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歓声が聞こえる。
どうやら開会式が始まったようだ。
「はーい、ジッとしててね」
「ぐっ!?」
目の前の、耳の尖った長耳族の女医さんが僕の右手首を掴む。
「あー、逝ってるね。手首の骨」
僕はいま闘技場の医務室に居る。
先ほどマッキーと衝突した際、片手で剣を持ったのが駄目だった。
衝撃を吸収しきれず、剣を持つ右手首にダメージが入ったのだ。
「はーい、ジッとしてて。【グロップ】」
女医さんは右手から赤色の光を出し、僕の手首に当てた。手首が微かに熱くなる。
その後、女医さんは手首に包帯を巻いて、手首が曲がらないように固定する。
「はい。処置終わり」
僕は右手を軽く振る。
「いつっ!?」
痛い……痛みはまったく取れてない。それどころか強くなってる気がする。
「治ってなくないですか?」
「場所が悪かったわね」
「場所?」
「手首ってね、細かい骨が密集してて結構複雑なの。魔術で一気に治すと骨がデタラメにくっつくことが多々あるのよ」
「さっきかけた魔術は治癒魔術ではないんですか?」
「もちろん治癒魔術よ。でもアレは自然治癒能力を高める魔術。手首の骨は自然に治すのが一番確実なの。三日もすればうまく骨はくっつくはず」
「いやでも、今日試合があって……右手が使えないと困るのですが……」
「無理やり治してもいいけど、失敗したら今日だけじゃなくて今後の試合にも影響するわよ」
「……成功率は?」
「80%、ってところかしらね」
80%か。この確率を高いとみるか低いとみるかは人による。僕は……低いと思った。
一回戦だけじゃなくて二回戦、三回戦と引きずるのが最悪。幸い、一回戦の相手であるレイスはそこまで強そうには見えなかった。左手一本でも勝てる可能性はある。
だけど多分、アイツは僕の右手に気づいていた。
恐らく実力の無さを狡さで補うタイプ。思いっきり弱点を突いてくるだろう。
……。
両手で剣を触れない以上、剣圧に魔力を纏って放つ【青薔薇】は使えない。
左手一本で剣を振ることはできるが、【青薔薇】が使えない以上剣術だけじゃ決め手に欠ける。
やはり魔術を組み込むしかない。
だが無暗に魔術を使ってたところで、僕の魔術の練度はたかが知れている。
「一度だけよ」
女医さんは呆れたような顔で言う。
「一度だけなら、両手で剣を振っていい。すっごい痛いと思うけどそこは自己責任ね。【グロップ】は細胞・筋肉・骨……そして神経に至るまで活性化させる魔術だから、痛みも倍増しているわ」
「【グロップ】を解いてもらうわけにはいけませんか?」
「【グロップ】がかかっているから一度だけ振っていいの。あなたの手首が酷く損傷しても【グロップ】によって強化された自然治癒力で応急処置ができるってわけ」
「……そういうことですか」
――作戦は決まった。
「ありがとうございます」
断言しよう。
勝つにせよ、負けるにせよ、
勝負は10秒で終わる。




