第19話 3つの魔術
――自動化されているからこそ難しい。
僕は場所を移して、店の裏で魔術の練習・分析を始めた。
マーカスの姿はない。この段階での試行錯誤は自分一人でやるべきってことだろう。
魔術名を口にすると、自動的に魔力が魔術の発生源(【フレイド】なら右手)に移動し、放出・変換される。
この魔術名を口にしてから発動するまでは抗えない『流れ』が発生して、僕が手を加える余地がないのだ。
例えば料理なら自分の口に合うようにレシピの調味料を変えたり、素材の量を減らしたり・増やしたりできる。
だけど魔術はそれができない。【フレイド】という魔術のレシピに対し、僕が手を加えることを許されないのだ。こんな少量の魔力じゃなくてもっと思いっきり魔力をぶち込みたいのにできない。魔術の発動タイミングをズラすこともできないし、右手以外の部位からも発生させたいのにできない。
ただ黙唱部分を多少いじると左手からは発生させることができるそうだ(本に書いてあった)。【フレイド】の場合、右手パターンの黙唱と左手パターンの黙唱はあった。だけど他の部位のパターンはない。つまり【フレイド】を口とか足とかから撃つことはできない。
発動した後はある程度指向性を持たせることはできる。今の僕でも『真っすぐ飛ばす』・『カーブさせる』・『魔術の速度を落とす』ぐらいはできる。
思ったより不自由。
それに片っ端から魔術を試してわかったが、魔術には相性があるようだ。
炎魔術【フレイド】はランプ程度の火しか出なかった。
雷魔術【エレヴァ】は静電気レベル。
風魔術【ウィング】は木の皮に切れ込みを入れるぐらいの風が出た。
水魔術【マリン】は人間を吹き飛ばせるぐらいの激流が出た。
どれも魔力消費は同じ。なのにこうも差が出たのだ。
僕は30分で99の魔術を試し、その内自分と相性が良かった3つの魔術の詠唱文を暗記する。
水魔術【マリン】……右手から水を生み、発射する魔術。
障壁魔術【リヴェル】……受けた攻撃を反射する薄紅色の壁(成人男性が身を隠せるぐらいの大きさ)を目の前に設置する魔術。
消音魔術【サイレント】……足音を消す魔術。
【マリン】と【リヴェル】はまぁまぁ実用的だが、【サイレント】は実戦では使えなさそうだ。
しかし【サイレント】以下の魔術が酷すぎた。【サイレント】はまだ不意打ちとか闇討ちには使えそうだが、他の魔術は全然駄目だ。【エレヴァ】レベルが96個並んでいたと考えてくれていい。
平原に足を運ぶ。マーカスは手ぶらで待っていた。
「武器はなし。体術と魔術オンリーの手合わせをする。質問はあるか?」
「とりあえず……今はいいや。始めよう」
早く実戦で魔術を試してみたい。積もる質問はその後だ。
「じゃあスタート!」
僕はすでに、【マリン】の黙唱は終えていた。
「【マリン】!」
右手から水の塊を発射する。
マーカスは簡単に水を避け、接近してくる。
てっきり魔術で対抗してくると思ったが、体術で来るか!
だったら障壁魔術を……、
(堅牢なる守護神よ、我が盾となって)
黙唱している内に、マーカスは距離を詰めてきた。
マーカスの右拳による突きが飛んでくる。
(あらゆる事象……を!)
黙唱しながら拳を躱す。だが、
「がはっ!」
拳を囮にしたマーカスの膝が脇腹に刺さった。
「しまった……!」
痛みで思考が止まって、
「黙唱を途切れさせたか?」
「くっ……!」
僕は一度魔術を諦め、体術に意識を向ける。
右手で殴ると見せかけ、右手でマーカスの目線を覆い、左足で足払いを仕掛ける。
マーカスは足払いを飛んで避け、右手を僕に向けた。
「【エレヴァ】」
「つっ!?」
マーカスの右手から出た雷撃に体を撃たれ、僕は膝をつく。
「頭ん中で文章読みながら戦うってのは意外に難しい。並列思考能力ってのが試される」
「マーカスの言う通りだ。戦闘に組み込むのは難しい……!」
「ま、鍛えりゃこれぐらいの芸当はできるようになる。見てな」
マーカスは両手を広げ、
「【フレイド】、【エレヴァ】」
「……!?」
マーカスの右手から火炎が、左手から雷撃が出る。
「【ウィング】、【マリン】」
「……」
今度は右手から突風が、左手から水が出た。
――意味がわからなかった。
「魔術と魔術の間に黙唱を挟む以上、連続で魔術を発動するなんてできないはず……」
「頭の中で【フレイド】、【エレヴァ】、【ウィング】、【マリン】の黙唱を並列でやったんだよ。黙唱の速度を微妙に散らして、順々に詠唱を終えればこの通り。オレは同時に7つまでの魔術なら並列詠唱できるぜ」
……。
正直、これから先どれだけ頑張ったところで、こんな芸当できる気がしない。
「……お前、並列思考のセンスはあまり高くないようだな」
「――みたいだね……」
「明日までに魔術を実用ラインまで持っていくのはきつそうだ」
ズボンについた土埃を払い、立ち上がる。
「そうだね。仕方ない。一回戦は剣一本で挑むよ」
「そうしろそうしろ。お前の【青薔薇】は良い技だ。アレを主軸に戦闘を組み立てればまぁ勝てるだろ」
付け焼刃で魔術を使ってもボロを出すだけ。僕が最初から体術に専念していたら今の勝負だってもっと競っていたはずだしな。
僕は宿に戻り、明日に疲れを残さないようすぐに眠った。
――次の日、
僕は空に打ちあがった花のように散る火炎の音で起こされた。後で知ったが、この火炎の名は花火と言うらしい。
オセロ=カーディナル
年齢:15歳 身長172cm 体重69㎏
特殊技能:“風霊の鼓動”
・魔力の総量が大幅に増え、魔力出力も比例して増える。
“メモリーリフレイン”
・ハムレットが左眼にかけた呪い。常にハムレットと出会った日の映像が左眼に流れる。
技:【青薔薇】
・剣圧に魔力を乗せて振るう剣技。構造は単純だが、“風霊の鼓動”を持つオセロが使うと爆発的な破壊力になる。武器が“フラットローズ”なので切れ味はなく、斬撃と言っていいのか打撃と言うべきかわからない。
武器:“棘の無い薔薇”
・刃がない騎士剣。絶対に壊れないという噂。
魔術:【マリン】、【リヴェル】、【サイレント】
・水の塊を撃ち出す【マリン】、攻撃を反射する壁を生む【リヴェル】、足音を消す不意打ち・闇討ち特化の【サイレント】。それなりに良いバランスの魔術構成ではある気がする。ちなみにオセロと相性が良かった順で並べると【リヴェル】>>【マリン】≧【サイレント】って感じ。




