第18話 ステップ1『魔術』
店長は快くマーカスを受け入れた。
〈チドリ亭〉は従業員不足だってことは知ってたから、受け入れるだろうと予想はしていた。
マーカスも僕と同じで〈チドリ亭〉の二階に住むことになった。
〈チドリ亭〉の二階にはリビングと4つの部屋がある。4つの部屋の内、2つを僕とマーカスが使うというわけだ。トイレと洗面台は一階にあるものを借りて、風呂は街にある大浴場を使う。
僕とマーカスはその大浴場に来ていた。
「最大の鬼門は組み合わせだな」
僕とマーカスは湯船に浸かり、トーナメントについて話していた。
「トーナメントは全五回戦の勝ち上がり。組み合わせの決め方はわからないが、エンタメ性を考えるに三強は間違いなくトーナメントの四つ角に配置される」
「四つ角に3人……ってことは、どこかの角は空くわけか」
「そういうこと。三強のいないグループが一つできる。三強と戦うのは後の方がいいからな、その空白のグループに入れたら最の高。逆に一回戦で三強と当たるようならさすがに無理無謀だなー」
「組み合わせの発表は明日だったね」
「闘技場のエントランスに張り出されるらしい。バイトが始まる前に行こうぜ」
次の日の朝。
僕とマーカスは闘技場のエントランスに足を運んだ。
エントランスにも掲示板があり、そこにトーナメント表の描かれた紙が貼り付けてある。
「鬼門は越えたな」
マーカスが肩の力を抜きながら言った。
「三強のマッキーがBグループ、フロディアスがCグループ、ハルマがDグループ。そんでお前が」
「Aグループ」
僕はトーナメントのAグループに配置されている。三強のいないグループだ。
一回戦目の相手は……レイス。全く知らない名前だ。
「お久しぶりです」
背後から僕に向けて声が飛んできた。
振り返ると赤髪の少女エミリアが立っていた。表情は硬い。
「エミリア……」
「お前の知り合いか?」
「知り合いってほどじゃないかな」
ちなみにエミリアの名前も当然トーナメントにあった。
エミリアはBグループだ。
「あなたと戦うとすれば、準決勝ですね」
「そうだね」
「あれから心変わりはしましたか?」
「まったく全然1ミリたりともしてないよ」
「……そうですか、残念です。しかし、復讐のための強さでは私には勝てませんよ」
「どうかな? それは試してみないとわからないさ」
エミリアは僕を強く睨んだ後、コホンと咳払いし、僕のポケットに手を伸ばした。
「えっ、なに?」
エミリアはゴソゴソとなにかをポケットに入れた。
僕はそれをポケットから引き抜いてみる。1万ゼラの札、二枚だ。
「……この前の昼食代、払い忘れてすみませんでした」
と恥ずかしそうに顔を赤めて言い、エミリアは去っていった。
「おっかねー嬢ちゃんだなぁ」
マーカスが僕の肩に肘を置いてくる。目には好奇心が宿っている。
「なぁなぁ! 復讐ってなんぞ? お前、復讐のために旅してるのか?」
「答える義理はないかな」
「教えてくれよ~。良いネタになりそうじゃんかよ~!」
マーカスはエミリアと逆で、僕の事情を聞いたら喜びそうだな……。
---
10時からは店が開く。
僕、マーカス、コロットさんの3人でホールは回し、
厨房は店長1人で回す。
10時台はポツポツ人が来る。この間にマーカスに仕事を仕込む。
11時から客足は加速をはじめ、12時過ぎにピークに達し、13時半までピークが続く。
14時になると段々暇になり、15時には客は一切いなくなった。
「ふーっ、つっかれた。ウェイターって結構重労働なのな」
マーカスは制服の第一ボタンを外し、空席に座る。
「お前達、もう上がっていいぞ」
店長が言う。
「あれぇ? まだ交代の時間じゃないよね?」
コロットさんが聞いた。
僕ら3人は17時に夜勤組と交代することになっている。あと2時間は働かないといけないはずなのだが、
「いいや、今日は15時半には閉める。闘技場で売る弁当の仕込みがあるからな」
明日はAグループの一回戦がある。
明後日はBグループ、3日後にはCグループ、4日後にはDグループ。4日かけて一回戦をやるのだ。
Aグループである僕は明日試合なので早めに上がれるのはありがたい。
「試合のある日は朝と昼は店を開かず、17時から店を開く。シフトを入れたい者は先に言っておくように」
「アイマイミ~」
コロットさんは度々この『アイマイミ~』という独特の返事をする。多分、意味は『了解』的な感じだ。
「マーカスは強制的に参加してもらうぞ」
「げっ!? マジかよ……」
「お前はオセロと違ってトーナメントに出ないんだから当然だ」
「僕も試合のない日はお手伝いします」
「あたしはトーナメントの期間は休もうかなー」
マーカスがちょんちょんと僕の肩を突いてくる。
「せっかく早めに上がれたんだ。早速修行を始めるぜ」
「わかってるよ、師匠」
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「魔法を覚えるまでには3つのステップがある」
〈チドリ亭〉二階のリビングでマーカスと僕は床に座って向かい合う。
リビングにはまだ壊れかけの机やら椅子やらが散らばっている。いつか掃除しないとな……。
「1つ目のステップは『魔術を覚えよう』だ」
「質問です」
「なんだねオセロ君」
「魔術と魔法の違いとはなんでしょうか?」
魔術と魔法、僕にはこの違いがまったくわからない。
なんとなく魔術が下位、魔法が上位の術と認識しているが、はたしてこの認識が合ってるかどうかもわからない。
「内緒」
「内緒って……」
「いま言ったところで理解するのは難しい。とりあえず魔術は小技、魔法は必殺技って認識でいいよ」
マーカスは手元に黒い球体を出す。
――【僕だけの秘密基地】。
マーカスはこれを魔法だと言っていたな。
「これを読め」
マーカスは球体から分厚い本を出し、僕に投げる。
僕は本を受け取り、1ページ目を開く。
「そのページに書いてある文を読むと炎魔術【フレイド】が右手から発動する」
「ここで撃っても大丈夫?」
「窓の外に手を向けりゃ大丈夫さ」
僕は本を左手に持ち、リビングの窓から右手を出す。
「火炎宿りし霊思よ、マナに導かれし夢幻の奇跡よ、我が魂の名の許に集い渦となれ。【フレイド】」
読んでみた、けど、手から火が出る気配はない。
僕はマーカスを見る。
「残念だが、全部口に出して読んでも魔術は発動しない」
「どういうこと?」
「『火炎宿りし』から『渦となれ』までを頭の中で読み、最後のカッコで括られた【フレイド】だけを口に出して読んでみな」
「……?」
よくわからないけど、言われた通りにしてみよう。
「(火炎宿りし霊思よ、マナに導かれし夢幻の奇跡よ、我が魂の名の許に集い渦となれ)――【フレイド】」
右手が熱くなる。
「――!?」
右手の魔力が手の平から放出され、炎となり小さく打ちあがった。ランプの炎程度の大きさだ。
「魔術の詠唱は黙唱部分と音唱部分に分かれてるんだ。最初の長ったるい部分が黙って読む黙唱部分、最後の魔術名が口に出して読む音唱部分だ。魔術名を口にした瞬間魔術は発動する」
「……思ったより」
「簡単だろ?」
複雑な魔力コントロールだったりは一切してないのに、簡単に魔術は発動した。本当にただ唱えただけで自動的に手に魔力が集まり魔術が発動した。
「魔術はイージーだぜ。基礎的な魔術なら魔力コントロールができないやつでも使える」
確かに、発動自体は簡単ではある。
「だがな、これを戦闘に取り込むとなると難しい」
「そうなの?」
「一見にしかずだな。その本には99個の基礎魔術の詠唱文が載っている。今から99の内3つの詠唱文を覚えろ。覚えたら前にオレと戦った場所に来い」
「実戦で魔術を試すってことだね?」
「そうだ。そんじゃ、オレは先に行ってるぜ」
マーカスは一階へ降りていった。
僕は一人残った部屋で、もう一度【フレイド】を撃ってみる。
手から炎が出て、すぐに消える。
「さて」
……色々と実験してみるか。
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