第16話 青い薔薇
「この辺でいいかね」
マーカスに連れてこられた場所は街の外の平原だ。
人は誰も居ない。
僕は一度部屋に戻り、“棘の無い薔薇”を回収してから来ている。準備は万端だ。
「剣士か」
「君は槍使いみたいだね」
「いいや、オレは小説家だ!」
小説家? 職業がそうなのかな。
僕は戦闘スタイルのことを言ったのだが……。
「ルールはそうだな。ギブアップ宣言するか、片膝ついたら負けってことで」
「いいよ」
僕は剣を構える。マーカスは槍を右手に持ち、左手はポケットに入れたままだ。
――舐められているな。
「先に聞かせてもらってもいいかな? ……どうして僕を弟子に、いや……どうして僕を強くしたいの?」
「ヴリトラトーナメントでお前が優勝するのに全財産ぶっこんだからだ!」
「……は?」
マーカスはポケットから紙を一枚出した。
僕の名前が書かれた闘券(予想したトーナメント優勝者の名前の入った券。その剣闘士が優勝した際、配当を得るために必要な物)だ。
「お前が優勝しなきゃオレは全財産を失う! 逆にお前が優勝すれば仕事もせず、小説の執筆に集中できるだけの金が手に入る!」
「……なんで僕に賭けたの?」
「お前が一番配当が高かったから。それ以外の理由はねぇ」
やっとマーカスの目的を理解できた。
マーカスは僕を優勝させて金が欲しい、だから僕を弟子にして強くしたい。
この勝負は僕に圧倒的な実力差を見せつけ、心から己を師事させるためのものだろう。
是非ともマーカスの計画通りにいってほしいものだ。僕も心から師事できる相手を探している。
それに……良い機会だ。あの技を試せるかもしれない。
「ほう」
僕が全身に魔力を纏うと、マーカスは感心したような声を上げた。
「中々の魔力量だ。魔力コントールも良くできてる」
まだ全開の魔力ではない。
とりあえず、これぐらいで様子見だ。
「はぁ~、調整が難しいな」
マーカスの全身に魔力が立ち上る。
驚いたのは、その纏った魔力の量。
僕の見間違いでなければ、僕が纏った魔力量とまったく同じ量の魔力だ。
「……こんぐらいか?」
相手とまったく同じ魔力を纏う……魔力コントールをここ数日、必死にやった僕だからわかる。
――神業だ。
目の前に水の入ったコップがあって、これとまったく同じ量の水を水槽から手で掬って見せろと言われて、できるだろうか。マーカスはそれをやってのけたようなものだ。
「魔力はイーブンだ。勝敗を分けるのは純粋な戦闘技術。
お前の剣捌き、見せてみな」
「言われずとも!」
僕は地面を蹴り砕き、飛び出す。
あっという間に距離は詰まり、剣を振り下ろす。僕が振り下ろした剣をマーカスは槍の柄で受け止める。
「重っ!」
マーカスは左手をポケットから出し、両手で槍を支えた。
「あれぇ!? お前着やせするタイプ!? 思ったよりパワーやべぇんだけど!!」
「ちっ!」
駄目だ。完全に止められたな。
僕はバックステップを踏み、一度距離を取る。マーカスはすぐさま距離を詰めてくる。
想像以上の速度だった。同じ魔力を纏っているのに、僕より格段速い。
マーカスは雑な手つきで槍を繰り出してくる。素人の槍捌きだ。軌道は読みやすい。
だけど突きの速さ、重さが凄い。受ける度、手が痺れる。一突きずつ剣の腹で受け流し、マーカスの腹に向けて蹴りを出す。
マーカスは両手を槍から離し、僕の蹴りを両手で受け止め、僕の右足を掴んだ。
まずい……!
「んんっ! よいしょーっ!!」
マーカスに足を引っ張られ、ぶん投げられる。
なんて膂力だ! なにかタネがあるな。明らかにマーカスの筋力・魔力に見合ってないパワーだ。
僕は空中で体勢を直し、両足でしっかり着地する。
「こんなもんか? オセロ君よぉ!」
マーカスは休むことを許さず、突進してくる。
――良かった。これぐらいできる相手なら、アレを試せる。
「ガッカリだぜ。もうちょいやるもんだと――」
「……君を信頼するよ。マーカス」
「はぁ?」
僕は剣に、全開の魔力を込める。
「君ならこれを喰らっても死なないと、信頼する」
マーカスと視線が交錯する。
「――っ!?」
マーカスは僕の目からなにかを感じ取ったのか急停止をかける。
だが、もう遅い。マーカスはもう、僕の二メートル先に居る。
そこは間合いの内だ。
魔力の色は透明、熱気の色に似ている。
しかし一定以上の魔力が集まると、色は透明から青に変わる。
僕の剣は真っ青な魔力を纏った。
試験で岩を斬った際に披露した飛ぶ斬撃。
この技の名は――
「【青薔薇】ッ!!」
剣を地面から天に向かって振り上げる。
蒼き斬撃が剣から放たれ、マーカスに向かって伸びる。
「おっ、まえっ――!!」
マーカスは槍の柄で、その斬撃を受けた。




