第15話 弟子になれ
二階へ上がる。
真っ暗でなにも見えない。
店長は暗闇の中、部屋に入っていく。店長が暗闇に消えて数秒で部屋がパーッと明るくなった。
広い部屋、恐らくリビングだろう。壊れかけの椅子やテーブル、食器などが散乱してる。
部屋の中心に店長は居た。店長は鳥籠のようなモノに手を添えている。
籠の中には――真っ赤な八面体の結晶が浮いていた。
結晶は強い輝きを発している。どうやらこれが部屋の灯りになっているようだ。
「この籠はなんですか?」
「マジックランプという魔道具だ」
「魔道具?」
「魔力を込めることで動く道具だよ」
魔力を動力源に光を発しているのか。
「この結晶はなんですか?」
「魔石だ。魔道具には必ず魔石が付いてる。魔石が魔力を貯蔵し、効率的に回す」
「魔力を留める器というわけですか」
「ああ。それにしても、魔道具を知らないなんてよっぽど田舎から来たのだな」
「そうですね……ハッキリ言って僕の故郷はド田舎です」
「魔道具には早く慣れることだ。この街の家具はほとんど魔道具だからな」
店長は歩きながら二階の説明をする。
「寝室は4つある。好きな部屋を使え。トイレと洗面所は一階にあるものを利用してくれ、一応井戸も裏手にある。浴場はないからどこか適当な大浴場に通うといい」
「わかりました」
「説明は以上だ。戸締りだけはしっかり頼むぞ」
「はい!」
「それじゃ、私は失礼する」
「ありがとうございました!」
店長は手を振って一階へ降りていった。
「さて……」
思った以上に良い寝床を貰ったな。
寝室の1つに入る。真っ暗だ。中央に月明かりに照らされた籠――マジックランプが見える。
僕はマジックランプに近づき、籠に手で触れる。すると魔力が籠に吸い取られ、魔石が輝き、部屋が明るく照らされた。
多分、これは魔力を操れなくとも使える。触ったら自動的に魔力が取られた。消費魔力は微々たるものだった。
「けほっ! けほっ! 埃っぽいな……」
窓を開け、空気を入れ替える。
空を見上げると三日月が輝いていた。
「遠くに、来たんだな……」
〈ネフラン〉の夜景を見て、改めて自覚する。
「師匠……どうするかなぁ」
エミリアと敵対してしまった以上、師の当てがなくなってしまった。
闘技場で記入させられたあのアンケートを見るに、闘技場にはきっと魔術・法術・魔法とやらを使える猛者がいる。
なんの知識もなしに彼らに勝てるだろうか。
魔法を教えてくれる師匠・先生の発見、または魔法に関する参考書を見つけること。これが次の目標だな。
---
二日が過ぎた。
「オセロ! そこにあるものを6番テーブルに運んでくれ!」
「わかりました!」
僕は完全に〈チドリ亭〉に順応していた。
〈チドリ亭〉で朝の10時から17時まで働き、空いた時間は魔力コントロールと素振りに費やしている。師や参考書も探しているが……残念ながら見つかっていない。
トーナメントの組み合わせ発表が明日、その次の日からトーナメントがスタートする。
トーナメント中も宿は貸してくれるそうだが、給料は働いた分に限ると店長に言われた。トーナメントに向けて訓練したいが、明後日からはどれだけ働けるかわからない。修行の時間を削っても今の内に稼いでおかないといけない……。
「ねぇねぇ新入り君!」
厨房の前で料理を待っていると、先輩ちびっ子ウェイトレスのコロットさんに声を掛けられた。
「店長に聞いたよ! ヴリトラトーナメント出るんでしょ? 〈チドリ亭〉のみんなで応援行くね!」
コロットさんは前髪から飛び出したブラウン色の癖ッ毛をぴょこぴょこと動かして言った。
年上なのだが、どうしても小動物のような可愛らしさを感じてしまう。
「私も応援に行く。元からヴリトラトーナメント中は闘技場へ弁当を売りに行くつもりだったからな、ついでだ」
厨房から店長が言った。
「ここまで闘技大会が盛り上がるなんて珍しいよね~」
「なんせ三強が参戦するからな。当然と言えば当然だ」
ヴリトラトーナメントはかなり大きな行事らしく、街中その話題で持ちきりだ。
ここまでトーナメントが盛り上がっている理由の一つが三強とやらの存在だ。大体ヴリトラトーナメントの話題にはこの三強がついて回っている。
これまで闘技場で百を超える試合をして、なお無敗の三人を三強と呼んでいるらしい。三強同士が試合をしたことはなく、このヴリトラトーナメントが三強が争う初めてのトーナメントになるそうだ。
「来客だ。オセロ、対応を頼む」
カランカラン、と入店を知らせるベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
来店してきたのは男だ。紺色の髪を束ねた男。僕と同じぐらいの歳だろう。
シワの付いたYシャツと長ズボンを着ていて、どこか気難しそうなオーラを感じる。
「一名様ですか?」
客人は僕の顔をジッと見て、ニヤリと笑った。
「黒と白の髪、眼帯。お前がオセロ=カーディナルだな?」
「そうだけど、君は誰?」
「マーカス=グリーンロウだ。今日はお前に会いに来た」
〈チドリ亭〉の客じゃなくて、僕の客のようだ。
「表に出ろ、話がある」
「ごめん。いま仕事中だから、仕事が終わってからでいいかな?」
「わかった。外で待ってるぞ」
男――マーカスはそう言って店を出る。
現在11時、仕事が終わるまであと……6時間。
---
「おせぇぞバァカ!!!!」
17時。
仕事を終えた僕が外に出ると、ものすごい形相でマーカスが怒ってきた。
「てめっ、どんだけ待たせるんだコラ!!」
「ごめんごめん。終わる時間言ってなかったっけ?」
「言ってなかったですぅ! さっきの口ぶり的にすぐ終わると思ってました!」
「……待ちくたびれたんなら店に入ってくればよかったんじゃ?」
「お仕事の邪魔しちゃいかんというオレの配慮がわからんかね!?」
マーカスは「ったく!」と腰に手を置き、怒気を収める。
「それで、話ってなに?」
「ああ。単刀直入に言うぞ」
マーカスは人差し指を僕に向ける。
「お前をオレの弟子にしてやる」
「弟子?」
「そうだ。このヴリトラトーナメントの開催期間に限り、な」
ちょうどいま、僕は師を探しているが誰でもいいというわけじゃない。
「悪いけど、僕には君がそこまで強いようには見えないよ。僕より弱い人に、師は任せられない」
僕より強いこと。それが最低条件だ。
マーカスは細身で、覇気のようなモノも感じない。
とても戦士……って感じじゃない。魔力も感じない。
「そうだなぁ、大前提として自分より弱い奴を師にしたいとは思わないよな。まずはオレがお前より強いってことを示さないとな。うん、じゃあ戦おう!」
「戦う? 今から?」
「そうだ。話はそれからだな」
「断るよ。トーナメントの前に余計な怪我はしたくない」
そう言って僕は背を向ける。
「お前、魔術は知ってるか?」
立ち去ろうと出した足が、止まる。
「法術は知ってるか? 魔法は知ってるか? 知らねぇだろ、全部。それじゃ、トーナメントで優勝するのは絶対不可能だ」
「……君は知ってるの? 魔術も、法術も、魔法も……」
「知ってるぜ」
――いつの間にか、マーカスの手には槍が握られていた。
「なっ……!?」
手品とかそういうのじゃない。いま確かに、異質な魔力を感じた。
いま槍を出した技は、異能な何かだ。
「さっきも言ったが、話の前にまずは戦おうぜ。オセロ=カーディナル」
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