第14話 バイト先見つけました
厨房の奥で、僕は〈チドリ亭〉の店長に事情を説明する。
「なるほど。奢ってくれるはずだった者を怒らせてその者が離脱、食事代を払えなくなったというわけか」
「……はい」
〈チドリ亭〉の店長は20代半ばほどの人族男性だ。
灰色の長髪で、とてもクールな雰囲気の人。所作の一つ一つに大人の余裕のようなものを感じる。
「店長! 多分この子が言ってること本当だよ。あたし、一部始終見てたもん!」
ウェイトレスの一人が援護してくれた。
そのウェイトレスは身長130cmもない小さな女の子で、手が常人の倍大きい珍しい容姿をしていた。頭に大きなゴーグルを乗せている。
「えっと、店長のお子さんとかですか?」
「私に子供はいないよ。彼女はれっきとしたウチのホールリーダーだ」
こんな子供を働かせていいのか……?
「あーっ! いま『こんな子供が働いてもいいのか』って思ったでしょ! あたし、多分君より年上だよ!」
「いやいや、さすがに……」
「彼女の名前はコロット。歳は18歳だよ」
「18!?」
こんな小さな女の子が僕より3つも上? まさか――
「小人族……!」
「正解。珍しいだろう? 女の小人族だ」
小人族の特徴は小さな体と大きな手だと聞く。目の前の少女はその特徴にピッタリだ。
だけど小人族って男のイメージが強いから、彼女が小人族だという答えにたどり着くのが遅くなってしまった。たしか女性小人族が生まれる可能性って50分の1とかだったはず……。
「話を戻そう。食事代についてだが……とりあえず、今日一日ウェイターとして働いてもらってそれで帳消しにしよう」
「本当ですか! ありがとうございます」
「コロット、彼に色々仕込んでやってくれ」
「アイマイミ~」
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皿洗い・注文受付・配膳・テーブルの片づけ。
ウェイターの仕事は多い。ほとんど息つく間もない。
〈チドリ亭〉は繁盛しているとまでは言えなくとも、そこそこ客入りは良い。二時間に一度は満席になる。
目の前の仕事を必死に片づけていったらいつの間にか閉店時間(23時)になっていた。
「お疲れ、オセロ」
皿洗いの手を止め、返事をする。
「お疲れ様です、店長」
「良い働きだったぞ。初日とは思えん」
「コロットさんの教え方が上手かったんです」
そのコロットさんは17時には上がってしまって今はもういない。22時を過ぎてからは僕と店長のツーマンセルだった。いつもこの時間は店長一人で厨房も食堂も回していたそうだ。
「どうだろう、正式にここで働く気はないか? いまこの店はウェイター不足なんだ」
金のない僕にとってありがたい誘いだ。でも、
「働きたいのですが、ヴリトラトーナメントの期間はちょっと用事があるんです」
「差し支えなければその用事とやらを教えてもらってもいいか?」
「トーナメントに参加するんです。なので、トーナメントの期間は働ける時間が短いと思います」
「わかった。なら、トーナメントの期間は働かなくてもいい。これでどうだ?」
「はい! それなら是非働かせてください!」
ハムレットの捜索費用が溜まるまでの間、地に足つけて働ける場所を見つけられたのは良かった。トーナメントで負けた場合の保険にもなる。
結果的にエミリアと仲たがいしたことがプラスに働いたな。
「店長、この辺りで宿ってありますか?」
「あるが……君は無一文なのだろう? 0ゼラで泊めてくれる宿屋は知らないな」
「そこで、その、図々しいお願いなんですけど給料の前借りとか……」
「それは構わない。だがそれは食事代に当てることだ。宿はここの二階を使え」
店長は厨房の奥にある階段を指さす。
「あそこから二階へ上がれる。今は物置になってるが、元々従業員用の寝床だった場所だ」
「宿泊費は――」
「いらないさ。最近料理店を狙った空き巣が多くてな、お前に番犬の任をやってもらう。その代わり無料で泊まっていい」
店長は階段の方へ歩く。
「二階を軽く案内しよう。ついて来い」
「は、はい!」
こんなにもいっぺんに色々な問題が片付くとは。店長の懐の深さにひたすら感謝だな。
この人にはいつかちゃんとお礼をしよう。僕はそう決心し、店長の後をついていった。




