第13話 マーカス
どこから反論するべきか。
そもそも反論するべきか。
諸々考えてみる。
考えた結果、僕は感情を優先した。
「くだらないな」
まず今の感情を表した言葉を僕は口にする。
エミリアは面食らった様子だ。
「大前提として、僕は死んでいった人たちの感情なんてどうでもいい」
「なんです、って……?」
「僕が鎮魂のために復讐を成そうとしていると思っているのなら……大間違いだ。君の言う通り、彼女たちは仇討ちなんて望んでないだろうしね」
「ならば何のために……!」
「僕のためだ」
僕は即答する。
「君は言ったね、『あなた自身の幸せのために生きるべきです』と。僕は君の言う通りに生きているよ。――僕の幸せはハムレットを討つことだ」
「っ!?」
僕はハッキリと宣言する。
「これは誰のためでもない、僕のための復讐だ」
丁寧に、彼女の言葉を狩る形で反論した。
エミリアは押し黙ってしまった。
これで意見を引っ込めてくれる……と思ったら、
「え?」
――エミリアは、瞳に涙を溜めた。
「……悲しい人」
そう呟き、エミリアは――涙を流した。
「泣っ……!?」
驚きを隠せなかった。
そんな……泣くほど追い詰めたか? それとも僕に同情して泣いたのか?
「えっと、エミリ――」
「あなたが復讐のために賞金を求めるなら、私があなたを倒し、あなたの復讐の道を閉ざします! あなたの大切な人たちのためにもっ……!」
エミリアは腕で目をゴシゴシと擦り、その勢いのままポーチバックを持って店を出ていった。
「困ったな」
困ったのはエミリアと敵対したこと……ではない。
僕の目の前には皿の山がある。
この皿を積み上げた暴食娘は金を置かず、出ていってしまった。
そして僕は無一文。
……ここの飯代を払う金がない。
選択肢は2つ。食い逃げor皿洗いだ。
僕は席を立ち、この食堂のオーナーと思われる男性の前に行き、
膝をつき、
おでこを床にこすりつけた。
「皿洗いさせてくださいっ!」
「なんだって?」
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〈ネフラン〉の露店道で1人の青年が項垂れていた。
「おかしい……なぜだ。なぜ俺の本が一切売れないんだ……!」
青年の前には商品として10冊の本が並んでいる。
これらは全て、青年が書いた本だ。
10冊用意して10冊とも売れていない。
「なんだお前、まだここに居たのかよ。クソ作家マーカス」
青年の頭上に罵声が浴びせられる。
青年の前に二人のガラの悪い男が並び立つ。
「アニキ、なんすかコイツ?」
「知らねぇの? あの大作家スピアリアムの息子だよ」
ピク、と青年――マーカスの肩が震えた。
「え!? オレ、スピアのめっちゃファンですよ! でも息子がいるなんて知らなかった」
「2年前にスピアが死んで、その半年後にコイツがデビューしたわけだが……こいつの本は全部駄作!」
笑い声が露店道に響く。
「『傑作以外書けない』と言われたスピアの真逆だったわけだ。はっはっは! 小説に七光りは通用しないってことだな!」
フッ……とマーカスは笑う。
「そうだな。小説に七光りなど通用しない」
「いっ!?」
不良の男の喉元に、いつのまにか槍の矛先が添えられていた。
マーカスの手には槍が握られている。
「お前、どっから槍を……!」
「創作とは呆れるほど公平だよな。面白ければ正義、つまらなければ悪。作品外の要素など微々たるモンだ。お前の意見にオレは同意するぜ」
槍の白刃が不良の喉の皮に切れ込みを入れる。
「オレの作品を悪く言ったことに関しては、腹は立つがぶちぎれるほどじゃない。なのになぜ、オレがお前に刃を向けているか……それは、お前がオレのことをスピアリアムの息子と言ったからだ」
露店商やその客たち、全員がマーカスの威圧に飲み込まれた。
マーカスは口元だけ笑わせる。
「理由は省くが、『スピアリアムの子供』、『スピアリアムの息子』、『スピアリアムのせがれ』、『スピアリアムキッド』……いずれもオレの前じゃ禁句だぜ。わかったな?」
「あ、あぁ! わかった! わかったよ!」
マーカスは槍を下げ、笑いながら男の肩をポンポンと叩く。
「わかりゃいいんだよ。次はないからな?」
マーカスは手ぶらで、その場を離れた。
「あ、アニキ……おかしいぜ」
「なにがだよ?」
「アイツが持ってた槍も、並べてた本も、全部なくなってる! アイツ、バッグもなにも持ってねぇのに!」
子分の言葉で男も気づく。
マーカスの本と、本の下に敷いていた布、手に持っていた槍も、全部なくなっていたのだ。
男はマーカスの背を目で追いながら、冷や汗を頬に這わせた。
「ぶ、不気味な野郎だ……」
---
マーカスは街道を歩きながら、財布を覗いていた。
「……もう10万ゼラしかねぇ。このまま小説が売れなきゃ実家に帰る羽目になるぜ」
そんな時だった。
マーカスの耳に、熱気を帯びた複数の声が届いた。
「なんだ?」
マーカスは声が聞こえる方へ歩く。
たどり着いたのは巨大なテントだ。マーカスはテントに入る。
「参加者は出そろった! 総勢32名、参加者の詳細はこの紙に書いてある通りだ! 賭け金は1000ゼラから受け付けるぜ!」
テントの中は賭場だった。
賭場の取締役を囲むように人だかりができている。
空を舞う多くの新聞。恐らく風魔術か風魔法で飛ばしているのだろうとマーカスは予測する。
マーカスは新聞を1つ手に取る。
新聞にはヴリトラトーナメントの参加者の名前と詳細情報が書いてある。
参加者の情報の下には光文字でオッズ(倍率)が載っており、現在進行形でオッズを示す数字は揺れ動いている。この光文字も魔術、もしくは魔法の仕業だ。
「……ギャンブルか。あんま興味はねぇが」
マーカスは参加者とオッズを見ていく。
そして見つける、驚異的なオッズを持つ者を。
「なんだコイツ!? オッズ120倍!?」
その参加者の名は――オセロ=カーディナル。
オセロのオッズが高い理由は簡単だった。
「そいつはやめておいた方がいいぞ、あんちゃん」
マーカスの隣にいる博徒の中年男性が言う。
「参加者情報のところを見てみろ。魔術も法術も魔法も使えねぇ。しかも闘技場初参加で、片目が見えないときてる。優勝の線はねぇよ」
参加者の情報のところにはオセロが闘技場で書かされたすべての情報が載っている。
オセロは眼帯を付けていることを記載したため、博徒たちには片目が見えないと認識されたのだ。
「ふふふ……120倍ということは、10万賭ければ1200万ゼラになるということだ」
「お、おい。俺の話聞いてたか?」
「魔法が使えないのなら、使えるようにすればいいだけだ。この俺が師となってな!」
マーカスは取締役の前に行き、1万ゼラの札を10枚、テーブルに叩きつけた。
「オセロ=カーディナルに10万ゼラ……オールベットだ!!」
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