第11話 エミリア
「うおおおおっっ!!」
全身に渦巻いた魔力を腕と剣に集める。
魔力の密度を高めていくと、魔力は透明色から青色へと変色した。
「なんて、巨大な魔力っ!?」
「凄いのは魔力だけじゃありません……」
「え?」
そう、赤髪の彼女の言う通りだ。
ヒカリが魔禍病に苦しめられたように、濃い魔力は器を壊す。しかし――
「あれだけの魔力……普通の剣なら受け止めきれない。破裂するか、焼き切れるかのどちらかです」
「ならば、ヒビ一つ付かないあの剣は……」
「異常としか言いようがないです」
不壊の剣、どうやら嘘じゃなさそうだ。
僕は十分に魔力が滾ったところで剣を振り上げる――!
「待ちなさい! それだけの魔力を一気に放出したら――」
「いっけえええええええええええええええええええっっっ!!!!」
――バチイイイイイイィィィィィ!!!!!!! と、空気が割れる音がした。
魔力を纏った斬撃は容易く岩を破り、地面を砕き、20メートル先にある壁まで斬り裂いた。
「「…………」」
「えーっと」
僕は笑顔で受付嬢の方を振り返る。
「これで、トーナメントに参加できますかね?」
「え!? あ、はい……もちろんです。はい……」
受付嬢は信じられないという顔で破壊の跡を見ていた。
正直、僕も信じられない。
ただ魔力を纏った攻撃で、ここまでの規模の攻撃ができるのか。
最初の相手が岩で良かった……人だったら、殺していたかもしれない。
「で、ではお二人のプロフィールをこれに書いてください」
僕と少女は一枚の羊皮紙を渡された。
「そしてこちらはトーナメントのルールと日程の書かれた紙です」
さらにもう一枚羊皮紙を受け取る。
「私はこれからここを片付けないといけないので、先に受付の方へ戻っていてください」
受付嬢は笑みを浮かべながらも、額に血管を浮かばせている。声にも微かに怒気がこもっていた。僕に対し怒りを隠せずにいる。
壁は斬られ、地面は割られ、魔法陣が崩されたせいか壊れた岩は再生しない。これの片づけは大変だろう。
悪いことしたな……。
「ぼ、僕も片付け手伝います!」
「魔術使えない人が居ても邪魔です」
バッサリ断られた。
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窓口の前にあるテーブルで、羊皮紙に書かれた質問に答えていく。すぐ正面で赤髪の少女も記入を始めた。
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〔Qお名前は?〕
〔Aオセロ=カーディナル〕
〔Q年齢は?〕
〔A15歳〕
〔Q性別は?〕
〔A男性〕
〔Q自身の外見的特徴をできるだけ書いてください〕
〔A髪の色が白と黒の二色。目の色は灰色。身長は170cmほど。白のフード付きロングコートを着ていて、左眼を眼帯で覆ってます〕
〔Q魔術は使えますか?〕
〔A使えません〕
〔Q法術は使えますか?〕
〔A使えません〕
〔Q魔法は使えますか?〕
〔A使えません〕
〔Q当闘技場で戦ったことはありますか?〕
〔Aありません〕
〔Q職業は?〕
〔A無職〕
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おおかたよくありがちな質問だった。
しかし法術、魔術、魔法っていうのがよくわからなかった。
魔術と魔法は違うのか?
法術に関しては一切イメージすら湧かない。
とりあえず全部使えないにしたけど大丈夫だよな……。
そういえば、ハムレットも魔術・法術・魔法が何たらと言っていた。
やっぱりこの辺りを解説してくれる先生、師匠が必要だ。どこかで見つけないと。
「……やることが山積みだな」
「お待たせしました」
受付嬢が帰ってきた。
僕と赤髪の少女は紙を渡す。
受付嬢は僕らが記入した羊皮紙を一通り確認すると「大丈夫です」と笑う。
「トーナメントの組み合わせは3日後の午前7時に発表、その次の日からトーナメントが開始します。これで受け付けは終了です。お疲れさまでした」
「「ありがとうございました」」
僕と赤髪少女が頭を下げ、闘技場を出た。
「オセロさん、ですよね」
闘技場を出てすぐ、少女に声を掛けられた。
「あっ、うん。あれ? 名乗ったっけ?」
「いえ、すみません……先ほどあなたが記入した羊皮紙を見てしまって」
「別にいいよ。自己紹介の手間が省けた」
「私はエミリアって言います。15歳なので、あなたと同い年です」
「それならオセロって呼び捨てでいいよ。15歳同士、勝ち上がれるといいね」
「はい! その……先ほどは感服しました。まさかあんな短い時間で魔力を操れるようになるなんて。無理だと言ったことは謝ります。自分の価値観や常識を他人に押し付けてしまうのが私の悪い所で……」
真面目な性格だな。あの程度、謝るレベルじゃない。
彼女は僕の手を心配して止めただけで、そこに嘲る意思はなかっただろう。
「もしよろしければお食事でも一緒にどうですか? 私、故郷から出てきて知り合いの一人もいないんです。オセロとはぜひお友達になりたいです!」
エミリアは瑠璃色の瞳をこちらに向けてくる。
真っすぐで、穢れを知らない瞳だ。
「……そうだなぁ」
僕はいま、魔術・法術・魔法とやらについて教えてくれる人間を求めている。
彼女はさっきの試験の感じからしてその辺りに精通していそうだ。食事しつつ聞くのはアリ。
しかし、トーナメントのライバルでもある。普通、ライバルを強くするようなことはしないが……、
「そうだね。行こうか、ご飯」
「は、はいっ! 嬉しいですっ!」
例えライバルだろうと、この子なら頼み込めば力になってくれる気がした。聞いてみる価値はある。
「あっ」
1つ、大切なことを忘れていてた。
「僕、いまお金が無くて……奢ってくれるかな?」
初対面の相手に、それも女性に食事を奢らせるなんて恥だ。
つい羞恥から顔に熱が上がる。
彼女はこんな情けない男に対して一切失望の色浮かべることなく、笑顔で頷いた。
「わかりました! 奢らせていただきます!」




