第10話 風霊の鼓動
筋力に自信はある。
ずっとあの寒い地域で20㎞の距離を行き来し、毎日釣り竿を振り続けた。上半身も下半身も並以上の筋力はあるはずだ。
“棘の無い薔薇”は砕けない剣だ。
本当に砕けないかどうか確証はないけど。
この筋力で、この剣を思い切り叩きつければ岩は割れるだろうか?
……答えはわかり切っている。
「行きます……!」
跳躍し、剣を縦に振って岩に叩きつける。
「ぐっ……!?」
――ガキンッ!!!
攻撃は弾かれ、両手に鈍く重い衝撃が返ってくる。
着地して、岩の表面を見る。微かにヒビができているが、すぐにヒビは消えてなくなった。
やっぱり無理か……しかしそれにしても、この岩、硬すぎる。全壊とまではいかなくとも中腹ぐらいまでは割れると思ったのに、ヒビ程度で済まされた。
「ただの岩じゃありませんね……」
「はい。これは鳳凰岩と言って、通常の岩石の3倍の硬度を誇ります」
受付嬢は僕から視線を切る。
「残念ですが不合格です。トーナメントに参加はできませ――」
「ちょっと待ってください」
受付嬢の言葉を失礼を承知で遮る。
「もう一度挑戦させてください」
「……別に構いませんが、無理だと思いますよ」
受付嬢はため息交じりに言う。
「見たところ、あなたは魔力を纏う術を知りません。魔力なしにこの岩を砕くのは絶対に不可能です」
多分、この試験は魔力を十分に使えるかどうかを測るためのものなのだろう。魔力なしでは絶対に突破できないよう調整してあるのだ。
魔力を扱えること、これが大会に参加する最低条件……というわけか。
「もう、やめた方がよろしいかと」
背後の少女が言った。
僕は彼女の方を振り返る。
「それ以上、ガムシャラに攻撃すれば手が動かなくなりますよ」
彼女は僕の手を見る。
僕の手は痙攣している。全力で振った一撃が弾かれたのだ、こうなって当然だ。正直、今のこの両手でさっきの威力以上の斬撃を繰り出せない。
但しそれは、魔力を使えなければの話だ。
「……魔力を纏えればいいんだろう」
ハムレットは言っていた、僕は無意識に魔力をコントロールできていると。
その無意識を意識下に持ってくる。
「無理です」
赤髪の少女は冷たく言い切る。
「魔力を視認できるようになるのに半年、それを体内で動かせるようになるのに半年、体外に出し、体や武具に纏えるようになるには一年かかります。計二年……あなたには修行が足りません」
「2分で十分だ」
「え?」
「2分で纏ってみせる」
僕は左眼を覆う眼帯を外した。左眼に、あの地獄の一日が映される。
さて、問題だ。
この左眼に映る惨劇は一体誰の視点でしょうか。
僕やヒカリの視点じゃない。なぜなら僕らを客観的に見ているからだ。
第三者目線でヒカリの変貌やヒカリの暴走、僕とヒカリの戦いを視ているこの視点の主、それは当然あの男……ハムレットだ。
奴の見る景色には1つ違和感があった。
僕もヒカリも微弱なオーラのようなモノを纏っているのだ。
僕の目からでは見えなかったこのエネルギー体、ハムレットの目では見えているこれはきっと、魔力と呼ばれるものだ。
ハムレットは間違いなく魔力を視認し、操れる。
ハムレットの視界であるこの景色には当然奴が見ている魔力も映っているのだ。
この記憶を通して僕は僕の中の魔力の流れを知ることができるのではないだろうか?
左眼に映る景色、記憶は僕の意思で何倍速にでもできる。
僕は高速で記憶を回し、ヒントとなるシーンを探す。
10秒経過。ヒカリが村民を食い殺すシーンが終わる。
30秒経過。僕とヒカリの戦いが終わる。
1分経過。
「……あった」
一度だけ、僕が無意識に魔力を纏ったシーンがあった。
それは僕がハムレットの刀を白刃取りした時だ。この時、僕は手に魔力を纏っていた。
あの時の感覚を思い出せ――!
「そうだ……」
あの時、不思議な場所が熱かったのを覚えている。
――そう、心臓の隣の、見えないなにか。
殺意が全身を駆け巡った時、そこだけが異常に熱くなった。それから両手に力が漲ったんだ。
血液が心臓からポンプされるように、魔力にも発生源となる器官があるはず。
多分、その器官がある場所は……!!
「嘘……!」
少女の驚いたような声。
意識を現実に戻す。右眼に映る僕の右手に、湯気のような透明なオーラが纏わりついていた。
「そんな……こんな短時間で、魔力を掌握するなんて!?」
「凄いですね。でも、あの程度の微量な魔力ではこの鳳凰岩は壊せませんよ」
これが……魔力!
「持ってこれた、意識下に……!」
ここだ。心臓の隣だ。ここに魔力を捻出する器官がある。
もっとだ。もっと寄越せ。
「「――ッ!?」」
あるんだろ、僕の中にも!
魔が渦巻く病が!!
「これまでどれだけ僕に、僕たちに迷惑をかけてきたと思っている!!!」
力を貸せ、
「“風霊の鼓動”……!!!」
全身を、魔力の渦が吞み込んだ。
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