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24.わかっていた黒幕

 目が覚めたときロルフは隣にいなくて、ソファに転がって長い足をはみ出させていた。いつ移動したのだろう。同じ寝台にいたのだから揺れただろうに、サリドラは全く気づかないまま寝入っていたようだ。


「ベッドで寝ていてよかったのに」


 言えば、じとりとした視線をいただいた。

 抱かれてもいいという軽薄な気持ちはなく、ロルフなら自制してみせるだろうという信頼感からの言葉だったのだが、お気に召さなかったらしい。サリドラの高い鼻を摘まんで、無言のまま退室してしまった。

 入れ違いに入ってきた侍女、ルルナには遠回しに貞操を心配されたが、何もなかったというとそれはそれで不満そうな顔をされた。


「鉄壁の理性は素晴らしいですが、サリドラ様はこんなにも魅力的ですのに、一晩同じ部屋で過ごして何もしないだなんて!」

「え、もしかして私ももう入っていい感じですかぁ? てっきりベッドシーツとかアレかと思って控えてたんですけど」


 ……もしかして、寝起きのサリドラは自分の魅力のなさを嘆くべきだったのだろうか。ルルナとラヴェーヌの反応を見ていると、手を出されない方がおかしいように思えてくる。


「いやあ、殿下のこと見直しましたよ私は。大事にされてますねサリドラ様」


 しみじみと言われると気恥ずかしい。


「まあそれは置いといて、また警備の人間が少し増えることになりました。物々しくて気詰まりかもしれませんけど、襲撃の背景がわかるまで勘弁してくださいねぇ」


 うろたえるサリドラに、ラヴェーヌはマイペースに騎士としての言葉をかけた。


「わかったわ。……あなたって、あんなにハキハキ喋れたのね」

「へへ、やるときはやるんですよ」


 頭を切り替えて了承する。部屋の中は相変わらずサリドラに好意的な女騎士が担当してくれるし、人の視線には慣れているので警備の視線が増えようと苦にならない。無用な外出もしないから行動制限がかかっても平気だ。

 そうして始まった一段と厳重な警戒態勢は、一週間ほどであっさりと終わった。


「我が女神を他国に売りつけようとするなど、全く許せることではありません!」


 立役者は膨大な資料を手にぷんすかと怒るドレジ子爵だ。

 彼は美しい美術品に盾突くシャタローザ公爵を警戒し、襲撃前からあらゆる手を伸ばして情報を掻き集めていたらしい。商人のツテは広い。個人情報を流出させるのは信用問題に関わるが、未来の王太子妃を害する可能性を提示すれば、およそのツテが口を割ったようだった。

 ドレジとて貴族であり商人。多少後ろ暗いことに手を染めているから、続々集まる些細な犯罪履歴には目を瞑った。しかし。


「シャタローザ公爵は我が女神の誘拐を目論んでいたようです。一時的に自分の手元に置き、その後は他国に売って処分する予定だったと」


 太鼓腹を揺らして憤慨するドレジ。いつでも温和な彼が怒る姿は初めて見たが、案外迫力があるものだなと思う。

 迫力で言えば、サリドラの隣で静かに資料を読み込むロルフの沈黙はドレジを遥かに上回るのだが。


「他国にわたくしを……? 売るのは難しいと思いますけれど」


 自国では絶世の美貌を持て囃されているサリドラだが、他国での扱いは中々複雑だ。一目見たいという人間が多い一方で、見たら終わりだと敬遠する者も多い。

 それというのも、人外の美貌を絵に起こすことはできず、精巧な姿絵を写す道具でもやはり何かが不足してしまうため、口頭でしか美しさが伝わらないせいである。噂に尾ひれ背びれがついて、魂を抜く魅惑の化け物扱いされていることもあると聞く。

 実際にはそこまでではない。人間関係は破壊されるかもしれないが、サリドラを目の前にしていなければそこそこ普通に生活はできるのだし。いや、まあ、それでも十分な害なのだけれど。

 とにかく、めでたくもなく各国で警戒されているようなので、攫って売ってもすぐに足がつくだろう。


「魅力的な品は、どのような事情があれど買い手がつくものです」

「……サリドラは物じゃない」

「例え話でございますよ、王太子殿下」


 唸るように抗議をするロルフに、ドレジは肩をちぢこめて弁解した。

 机に紙束が叩きつけられる。ばさり、ばさりと続けて資料が放られた。王は疲れた面持ちでこめかみを揉み、王妃は今にも手の中の扇子を折りそうなほどに怒り狂っている。


「なんにせよ馬鹿なことをしたものだよ。失脚を目前にして逸ったか」

「殺しましょう」

「落ち着きなさい」

「王太子妃の座が欲しいだけなら、誘拐したサリドラをシャタローザ公爵邸に一度留め置く意味がないのよ。下劣な意図がないのなら。今すぐあの下種を殺しましょう。いえ、殺すわ。わたくしが直々に」

「落ち着きなさい」

「母上、落ち着いて、騎士の剣を取り上げようとしないでください。私がやります」

「お前たちは本当に親子だな! 落ち着きなさい……!」


 陛下が大変そうだなあ、という感想が一番に立つ程度に、サリドラはシャタローザ公爵の計画に何も思わなかった。彼がサリドラに欲望を抱いていたのは公然の事実。この美貌を手放す算段をつけていたことには驚いたが、殺すのではなく誘拐を目論んでいたということには納得しかない。

 それより気になることがある。


「計画には、他の家族も加担していたのですか?」

「申し訳ない、女神。そこまではまだ調査を進められておらんのです。叩けば叩くほど埃が出るので、本命の情報が埋もれておりまして。ただ、奥方にはきな臭い話が多いので、恐らくご存じでしたでしょうな」

「そう……」


 軽く唇を噛むサリドラの隣で、苛立った様子を隠しもしないロルフが剣呑な声を上げた。


「陛下、冗談ではなく、直接私が出向きましょうか」

「王太子自らか?」

「いくつか決定的な罪が確定しているとはいえ相手は公爵家です。権力を笠に着て兵士の妨害をする可能性は高い。その点、私ならいくらでも強引に推し進められます」


 王との会話だ。危険ではないのかと口を挟むことはできなかった。

 けれど湧き出たその不安は彼に伝わったようで、膝の上に置いた手をするりと撫でられる。たった数秒間だけれどこちらを向いて、安心しろというように深く頷いた。


「……よかろう。ただし怪我ひとつ作るなよ」

「当然です。私の婚約者を悲しませる真似はしません」

「徹底的に暴きなさい。屋敷を壊しても許すわ」

「壊すなよ、殺すのも駄目だぞ」

「わかりました」

「どっちをわかった? ワシの方をわかれよ?」


 全てが判明したのは、それから数日後のことだ。ラヴェーヌの話によると、翌日にはすでに公爵家に乗り込んだらしい。あまりにも迅速なのだが、ちゃんと念入りに準備をしたのだろうか。

 両陛下への報告が済み、様々な協議を行い、ある程度の処罰が決まってから、ようやくサリドラのところに詳細が持ち込まれた。

まだ見直して手直ししますが、一応最後まで書けたので少しだけ投稿ペースアップしたいと思います。

終わりまでどうぞよろしくお願いします。

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