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ステンドグラスが光を通した万華鏡のように鮮やかな色彩の陰影を作り、荘厳な大聖堂を更に壮麗にみせる。

エリアナが赤いビロードのバージンロードを一歩、また一歩と進むたび、たなびく白いベールがふわりと揺れ、赤いバージンロードと白いベールが美しいコントラストを描く。

白く厚いベールは花嫁の顔を覆い隠し、招待客からはその表情を伺い知ることはできない。

だからこそ招待客の想像を掻き立て、花嫁はさぞ苦渋の表情を浮かべているのだろうと嘲笑っていた。



誰か……助けて……。



この結婚式が愛する人とのものだったらどんなによかっただろう。

エリアナは自分を身代わりにして逃げた公爵令嬢のアリスを恨み、絶望の表情を浮かべていた。彼女の茶色の瞳に光はなく、とうに涙など枯れ果てていた。

恨み言を吐こうにも口を開けばヒューヒューという息だけが漏れ、式の直前に飲むように命じられた薬湯で喉の奥が焼けるように熱く声が出せない。


金に近い茶髪の長い髪は高い位置で編み上げられ、その頭には白い生花が飾られている。白い生花はエリアナの結婚相手の国ニスタの国花で『貞淑』を意味し、挙式の際はよく用いられている花。

だがその結婚相手はおおよそ貞淑という言葉には相応しくないとんでもない女好きで、既に国の後宮に24人もの妻がいるというのに、歳の離れた若い娘を娶ろうという70歳をすぎた老齢のニスタの国王だった。


エリアナの青ざめた顔は白い肌をより一層白く見せ、ほっそりとした首筋に飾られた豪奢ごうしゃな宝石のついたネックレスが、より彼女の華奢きゃしゃさを助長する。そのネックレスは父親が初めて彼女に贈ったプレゼント。そのネックレスは肩に食い込むような重みを感じさせ、まるで形を変えた首輪だった。


バージンロードをエリアナの隣りで彼女を導くように歩いているのは、実父であるガーランド公爵。

公爵が歩くたびネックレスにかけられた魔法が作用し、立ち止まろうにもエリアナは無理矢理に歩かされた。抵抗は無駄だった。

エリアナはガーランド公爵が手をつけた侍女から産まれた娘で、公爵の私生児。

本来ならガーランド公爵と共にこのバージンロードを歩くのは、本妻の娘のアリスのはずだった。



「エリアナ……わかっているな?」



最後の確認するような硬く低いその声に、エリアナはビクリと肩を揺らすと、何度もこくこくとベールの内側で頷いてみせた。




エリアナが初めて実父であるガーランド公爵と会ったのは、10歳の時だ。

母から、父はエリアナが生まれる前に亡くなったと聞かされており、王都のはずれにある小さな家で母と祖母との3人でほそぼそと暮らしていた。

そんなある日、エリアナが近くの森に友達と遊びに出掛けて夕方に帰ってくると、自分の家に豪華な二頭立ての馬車が横付けされていた。

近所の人もその馬車が気になるのか、こっそりと馬車の中を見ようと背伸びして窓を覗き込んでいる。追い払われないところを見ると、中には誰も乗っていないようだった。


なんて綺麗なんだろう……。


栗毛で毛並みが艶々した馬があまりに綺麗で見とれその場に立ち尽くしていると、御者台にいた御者の若い男性がエリアナに気づき、馬車から降りて近寄ってきた。

御者はエリアナに人好きのする笑顔を浮かべて見せると、しゃがんで目線を合わせ話しかけてきた。



「近所の子かい?危ないから馬に近づかないようにね。」



見知らぬ人が近づいてきたのでエリアナは最初こそどぎまぎしたが、御者の優しそうな笑顔を見てほっとし、御者の言葉に何度もうなずいて見せた。


御者は自分の着ているものとは明らかに質の違う上等な服を身にまとっており、エリアナは思わず着ていた服を見下ろした。

御者が着ていたのは公爵家から支給されたただの制服であったが、近所のお姉さんからのお下がりの擦り切れかけたチュニックワンピースを着ているエリアナからしたら、着ているものが違いすぎて恥ずかしくなり、服の胸元をぎゅっと握って後退りしてしまった。

そんなエリアナを見て御者は、話はもう終わりだと追い立てるように手を振り立ち上がった。



「おうちに帰りなさい。お父さんとお母さんが家で待ってるよ。」



優しいトーンで諭すように言われ、エリアナは頭を振った。



「お父さんはいない。お母さんとおばあちゃんはいるけど。」



両親が揃っているのが当たり前みたいな物言いに、エリアナは悔しい思いをして俯いた。

片親なことを恥じているわけではない。ただ友達と喧嘩になったり喧嘩で友達に怪我をさせたりすると、たとえ喧嘩した相手の方が悪かったとしても、必ずといっていい程『あの子は父親がいないから』という口さがない大人がいて、いつも嫌な思いをしていたからだ。

ぎゅっと更に強く上着を握りしめる。すると御者は何かに気づいたように目を見開いて、また目線を合わすように腰を下ろした。



「もしかして、君の名前はエリアナ……というのでは?」


「え………うん、私はエリアナ……。」

しばらくひたすら主人公が可哀想な目にあいますが、お付き合いください。

なろうで書き始めて1周年になるので書き始めたものです。

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