いわくつきボロアパート
僕は小さなアパートのとある一室に住んでいる。そこはとても趣深い外見で……端的に言えば、ボロアパートだ。
ガンガン、と扉を叩く音が聞こえる。きっとこのアパートの大家さんだ。
「早くはらえ!追い出されたくなければな!」
毎日のようにこの部屋にやってくる。
全く、酷い世の中だ。あと少しではらえると何度も言っていたのに、聞いてくれやしない。
逆に、こんな汚い部屋に住んでやっているのだから、こっちが感謝してほしいくらいだ。
この部屋はいわゆる「いわくつき」の物件である。
前に住んでいた女性が首吊り自殺をし、それからというもの、この部屋を借りた人たちは必ず何らかの不調を訴え、引っ越してしまうのだそうだ。
僕はお金がなく、こんな部屋にでも住むしかなかった。まあ、ホームレスになるよりはましだ。
住み始めて2ヶ月、まだ何事も起こっていない。このまま何も起こらないで欲しい。
そんな僕の思いをよそに、やはりヤツが本性を現し始めた。もちろん、怪現象だ。
外から帰ってくると、部屋が異様に寒くなっていたり、夜中に目が覚めて、何らかの気配を感じたりする。きっとこれがみんなが引っ越した原因だ。
僕はできれば引っ越したくないので、もう少し耐えることにした。
ある昼下がり。僕はやることがないので部屋の中にいた。
備え付けのテレビを見ていると、いきなりテレビの電源が落ちた。叩いても何も変わらない。
部屋が寒くなってきた。そして自分の身体が重くなってきた。動けない。
背後から、ぺた、ぺた、と足音が聞こえる。
「ふふ、ふふふふ、ふふふふ」
女の笑い声だ。どんどん近づいてくる。
これはやばい。このままだと首を締められて殺される未来しか見えない。
動けない身体を無理やり動かすしかない。僕は覚悟を決めた。鳥肌が立って、冷や汗が吹き出る。
3、2、1、えい!
僕は思い切り振り返った。するとそこには、真っ黒い服を着て、真っ白い肌の女がいた。この世のものではない。
女は、真っ赤な唇を歪め、こちらに襲いかかってきた。
僕はポケットに入った御札を取り出す。それを前にかざし、女を玄関へと追いやる。このまま外に追い出せば……
ガチャ
いきなり扉が開いた。
「早くはらえ!」
そこには大家さんがいた。
女は、見つけたとばかりに、長い爪で、大家さんの首を締めた。大家さんはうめき声を上げ、倒れて、動かなくなった。
あーあ、もう少しで祓えるって言っただろう。
……またアパート探さなきゃな。