「勇者はもう信じられない!」「ジャア魔物ナラ信ジル?」
「なあ、ソロモン。お前…今まで何をやって来た?」
「…何もやれていないな」
「ああそうだ。お前は何もできていない。召喚獣を使えるとかでこの勇者ナナが仲間にしたってのによ…何もしてねえってのはどういうことだ!」
…仕方がない、なんて言い訳はできない。
勇者ナナは、俺が召喚獣を召喚するよりも速く敵を倒してしまうからだ。
そのために、俺は勇者パーティで何もできずにいた。
「だからよ。お前はクビだ。ソロモン」
「…そうだな。俺は辞めるよ。今まで世話になった」
だから、俺が辞めたとしても、彼らは普通に生活できるだろう。
俺がいなくても、彼らは魔王を討伐できるだろうな。
「待てよソロモン。お前はタダでは帰らせねえぞ」
「…? どういうこ―――!?」
突如として、背中に鋭い激痛がほとばしる。
体中が痺れる。冷たくなっていく。
…刺されたのか? 俺は、勇者に?
「ソロモン、お前は勇者ナナのレベリング時に戦死した。そういうことだ」
「もし、生きて帰ってこれたとしても、あなたはとっくのとうにアンデット化している。だから国には帰ることはできないわ」
そう勇者とともについて来ていた魔法使いが笑いながら言う。
ああ、この身体中のしびれはお前の仕業か。
「お前の道具はすべてもらっていくわ。んじゃあ、いい来世をー!」
「ふふふ…あなたなんかこの程度なのよ」
全身が痛くて、彼らの言葉が聞き取りにくい。
だけど、分かったことが一つある。
俺は、捨てられたんだ。
「はぁっ、はぁっ…」
全身がすごく怠い。視界が暗く感じる。でも、何とか歩ける。
もう国には戻れない。勇者が俺を入れさせないように仕向けているだろう。
「なら…遠くへ…近隣諸国へ…」
この森にさす日の光がオレンジ色になっていく。
夜になると魔物が活発になる。せめて、その前に…!
「…あれ? 体が…」
…体が、動かなくなった。
動かない体は、歩いていた俺を抵抗もなく地べたへと這いつくばらせた。
「…なんだよ…動けよ…」
うすうす、気づいている。でも信じたくない。
俺がもう死ぬなんて…
「嫌だ嫌だ! 死にたくないのに…!」
近くの草むらで音がした。魔物だ。もうおしまいだ。
「畜生…勇者…あいつのせいだ………許さねえ…」
草むらから魔物が飛び出す。
深緑色の人の姿をした魔物…ゴブリンだった。
俺は死ぬのか。ゴブリンごときに? 初心者でも狩れる筆頭に?
「…くそ…」
こんなあっけない終わりでいいのかよ…!
俺は無様にその記憶を闇に落とした。
…懐かしい夢を見ている気がする…
「お前…けがしているのか?」
「グググ…!」
数年前の、俺か?
あの頃の俺は、勇者パーティに入っていなかったな。
「…治してやるよ。暴れないでくれ」
「ギィ!? ギャウギャウ!」
「やめてくれ! 俺はお前を治したいだけなんだ!」
…ああ。こんなこともあったな。
あの時の俺は優しかったな。ゴブリンを治しちまうなんて。
なんでだっけな。なんで治そうと思ったんだっけ?
「…よし、これでいいな」
「…ギー」
「なぁ、もしお前がこれからまた人を殺すのであれば………俺を一番先に、殺してくれよな」
「………ギー」
…思い出せた。
確か、必死で生きようともがいていたから、だったな。
…俺は、お前ほどはもがけなかったな…
「………っ!? …ここは…!?」
目が覚めると、洞窟内にいた。
なんで俺はここにいるんだ? どうやって?
「…目覚メマシタカ?」
「…! お前は…」
「私ハアナタヲ助ケタ。ナゼナラ、アナタハ私ヲ助ケタカラ」
…夢で思い出した。ゴブリン…!
よく見ると、あの時、俺が治そうとした目の怪我が残っている…!
「…俺を、助けてくれたのか。ありがとう…」
「ドウイタシマシテ」
そういって、ゴブリンは俺の顔をじーっと見る。
「あ、あの? どうかしましたか?」
「…名前」
「あ、そうでしたか。名前、ですね。ソロモン…ソロモン・エネミズムです」
「ソロモン。ソウカ。カッコイイ」
「あ、ありがとう」
…会話が終わる。
ゴブリンが、俺が眠っていたわらぶきベッドに座る。
「…ネエ、アナタガ眠ッテイルトキ、勇者許サナイッテ言葉ヲ言ッテイタ。ナンデ勇者ヲ許サナイノ?」
「…それは、そうだな…」
全部、話すことにした。
正直、もうヤケになっていたんだ。
俺の話を聞いたゴブリンは、悲しい目をしていた。
「勇者ッテ、人ヲ助ケルンダヨネ? ナラ、ナンデアナタハ殺サレカケタノ? 分カラナイヨ…」
「…俺も、分からないな」
「…ネェ、アナタハ、コレカラドウスルノ?」
「…そうだな。近隣の国に行くかな。もう、それ以外に道はなさそうだし」
「ナァ、私モ連レテイッテ!」
いきなりそんなことを言うゴブリンに、俺は驚く。
ゴブリンは、ここまで感情豊かだったのか? 俺が、助けたから、俺が心配なのか?
「オ願イダ。ドンナ扱イデモ良イカラ、アナタダケデ行クノハヤメテクレ…今ノアナタハ、見テイルダケデツラインダ…」
「…そうか」
…俺をここまで大切に思ってくれるなんて、これは夢だろうか。
いや。夢でもいい。
「なら、俺に使役されるか? 召喚獣扱いならお前も国に入れるぞ」
「ナル! ナルカラ、一緒ニ行カセテクレ!」
「分かったから、焦らないでくれよー…」
そうして、俺はゴブリンを召喚獣にした。
「…うん? お前、ゴブリン・メイジなのか?」
「ア、アアア! ソウダッタ!」
「忘れてたのか?」
「チガウ! アナタニマタ会ッタ時ノタメノ変身ノ魔法ヲカケ忘レテイタンダ!」
「変身魔法!?」
王国でも解明されていない魔法じゃないか!
「エート、エート…………コウダ!」
「………! お前…その姿は…」
その姿は、ゴブリンと似て緑色の肌色だが、顔がゴブリンのそれではなく、人のそれになっていた。
しかも、人の、美少女のそれだ。
「…ドウ、ダロウカ? 醜クナイダロウカ?」
「…すごいよ。どうして覚えたんだ?」
「アナタト、一緒ノ旅ニ必要ダト思ッタカラ…」
「そこまで俺と旅がしたかったのか?」
「…一目惚レ…」
…一説によると、変身魔法で変身した姿はその魔物の心を反映しているという。
なら、このゴブリンは…
「…よし、じゃあ行くか」
「ウン」
「…あー、そうだな。お前、名前欲しくないか?」
「クレルノカ?」
「そうだな…ギーギー、でいいか? お前が人の言葉を話せなかった時の声からとった」
「ギーギー…イイ名前ヲアリガトウゴザイマス」
…心が、フッと軽くなった気がした。
俺は、勇者はもう信じられない。
けれど…
「なんでだ…何でお前が生きてやがるんだ、ソロモン!」
…再びの会合。あいつは、相変わらずだった。
でも、俺は違う。
心を通じ合える、いい仲間を俺は持てた。
「お前はそこで眠っていろ。戦いの邪魔だ」
「…っ!」
「…頼むぞ、ギーギー」
「はい。主の為に!」
ギーギーが、俺に魔法の結界を張る。
俺の為に、何重にも張って召喚完了まで耐えさせてくれる。
「頼むぞ、ミドガルズオルム」
「了。わが主よ!」
「頼む。フェニックス」
「はい。あなたの思いに、答えてあげるわ!」
「頼む。バハムート!」
「うむ。おぬしの為に、力を貸そう!」
みんなが、俺を信じてくれている。
もう、信じられない仲間なんていない。
「よーし勝ったのじゃあ! ソロモンよ! 酒を、祝いにを所望するぞ儂は!」
「終わったとなったらすぐこれかバハムート! 少しは倹約しないか!」
「まぁまぁ、ミドガルズさん。この子も頑張っているのですから…」
…みんな、いい子だ。
変身魔法にも、それが現れている。
みんな、可愛い良い子たちだ。
「…クッ」
「…いい仲間に恵まれなかったな。…行こうか」
「はい」
「畜生…畜生ー!」
俺は、勇者は信じられなくなったが、魔物は、信じられるようになった。
魔物にも大儀がある。それを知って行動すれば、信頼を得られる。
みんなと俺は、そうやって信頼を得た。
「じゃあ、帰るか」
「「「「はーい!」」」」
勇者なんかよりも、魔物のほうが、強いし、優しいし、信じられた。
それが、今の俺だ。
これが、伝説『66の魔物の主』ソロモンの始まりだ。
人気になったら連載するかも?




