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「勇者はもう信じられない!」「ジャア魔物ナラ信ジル?」

作者: あめつち
掲載日:2020/08/14

「なあ、ソロモン。お前…今まで何をやって来た?」


「…何もやれていないな」


「ああそうだ。お前は何もできていない。召喚獣を使えるとかでこの勇者ナナが仲間にしたってのによ…何もしてねえってのはどういうことだ!」


 …仕方がない、なんて言い訳はできない。

 勇者ナナは、俺が召喚獣を召喚するよりも速く敵を倒してしまうからだ。

 そのために、俺は勇者パーティで何もできずにいた。


「だからよ。お前はクビだ。ソロモン」


「…そうだな。俺は辞めるよ。今まで世話になった」


 だから、俺が辞めたとしても、彼らは普通に生活できるだろう。

 俺がいなくても、彼らは魔王を討伐できるだろうな。


「待てよソロモン。お前はタダでは帰らせねえぞ」


「…? どういうこ―――!?」


 突如として、背中に鋭い激痛がほとばしる。

 体中が痺れる。冷たくなっていく。

 …刺されたのか? 俺は、勇者に?


「ソロモン、お前は勇者ナナのレベリング時に戦死した。そういうことだ」


「もし、生きて帰ってこれたとしても、あなたはとっくのとうにアンデット化している。だから国には帰ることはできないわ」


 そう勇者とともについて来ていた魔法使いが笑いながら言う。

 ああ、この身体中のしびれはお前の仕業か。


「お前の道具はすべてもらっていくわ。んじゃあ、いい来世をー!」


「ふふふ…あなたなんかこの程度なのよ」


 全身が痛くて、彼らの言葉が聞き取りにくい。

 だけど、分かったことが一つある。


 俺は、捨てられたんだ。











「はぁっ、はぁっ…」


 全身がすごく怠い。視界が暗く感じる。でも、何とか歩ける。

 もう国には戻れない。勇者が俺を入れさせないように仕向けているだろう。


「なら…遠くへ…近隣諸国へ…」


 この森にさす日の光がオレンジ色になっていく。

 夜になると魔物が活発になる。せめて、その前に…!


「…あれ? 体が…」


 …体が、動かなくなった。

 動かない体は、歩いていた俺を抵抗もなく地べたへと這いつくばらせた。


「…なんだよ…動けよ…」


 うすうす、気づいている。でも信じたくない。

 俺がもう死ぬなんて…


「嫌だ嫌だ! 死にたくないのに…!」


 近くの草むらで音がした。魔物だ。もうおしまいだ。


「畜生…勇者…あいつのせいだ………許さねえ…」


 草むらから魔物が飛び出す。

 深緑色の人の姿をした魔物…ゴブリンだった。

 俺は死ぬのか。ゴブリンごときに? 初心者でも狩れる筆頭に?


「…くそ…」


 こんなあっけない終わりでいいのかよ…!


 俺は無様にその記憶を闇に落とした。











 …懐かしい夢を見ている気がする…


「お前…けがしているのか?」


「グググ…!」


 数年前の、俺か?

 あの頃の俺は、勇者パーティに入っていなかったな。


「…治してやるよ。暴れないでくれ」


「ギィ!? ギャウギャウ!」


「やめてくれ! 俺はお前を治したいだけなんだ!」


 …ああ。こんなこともあったな。

 あの時の俺は優しかったな。ゴブリンを治しちまうなんて。

 なんでだっけな。なんで治そうと思ったんだっけ?

 


「…よし、これでいいな」


「…ギー」


「なぁ、もしお前がこれからまた人を殺すのであれば………俺を一番先に、殺してくれよな」


「………ギー」


 …思い出せた。

 確か、必死で生きようともがいていたから、だったな。

 …俺は、お前ほどはもがけなかったな…











「………っ!? …ここは…!?」


 目が覚めると、洞窟内にいた。

 なんで俺はここにいるんだ? どうやって?


「…目覚メマシタカ?」


「…! お前は…」


「私ハアナタヲ助ケタ。ナゼナラ、アナタハ私ヲ助ケタカラ」


 …夢で思い出した。ゴブリン…!

 よく見ると、あの時、俺が治そうとした目の怪我が残っている…!


「…俺を、助けてくれたのか。ありがとう…」


「ドウイタシマシテ」


 そういって、ゴブリンは俺の顔をじーっと見る。


「あ、あの? どうかしましたか?」


「…名前」


「あ、そうでしたか。名前、ですね。ソロモン…ソロモン・エネミズムです」


「ソロモン。ソウカ。カッコイイ」


「あ、ありがとう」


 …会話が終わる。

 ゴブリンが、俺が眠っていたわらぶきベッドに座る。


「…ネエ、アナタガ眠ッテイルトキ、勇者許サナイッテ言葉ヲ言ッテイタ。ナンデ勇者ヲ許サナイノ?」


「…それは、そうだな…」


 全部、話すことにした。

 正直、もうヤケになっていたんだ。

 俺の話を聞いたゴブリンは、悲しい目をしていた。


「勇者ッテ、人ヲ助ケルンダヨネ? ナラ、ナンデアナタハ殺サレカケタノ? 分カラナイヨ…」


「…俺も、分からないな」


「…ネェ、アナタハ、コレカラドウスルノ?」


「…そうだな。近隣の国に行くかな。もう、それ以外に道はなさそうだし」


「ナァ、私モ連レテイッテ!」


 いきなりそんなことを言うゴブリンに、俺は驚く。

 ゴブリンは、ここまで感情豊かだったのか? 俺が、助けたから、俺が心配なのか?


「オ願イダ。ドンナ扱イデモ良イカラ、アナタダケデ行クノハヤメテクレ…今ノアナタハ、見テイルダケデツラインダ…」


「…そうか」


 …俺をここまで大切に思ってくれるなんて、これは夢だろうか。

 いや。夢でもいい。


「なら、俺に使役されるか? 召喚獣扱いならお前も国に入れるぞ」


「ナル! ナルカラ、一緒ニ行カセテクレ!」


「分かったから、焦らないでくれよー…」


 そうして、俺はゴブリンを召喚獣にした。


「…うん? お前、ゴブリン・メイジなのか?」


「ア、アアア! ソウダッタ!」


「忘れてたのか?」


「チガウ! アナタニマタ会ッタ時ノタメノ変身ノ魔法ヲカケ忘レテイタンダ!」


「変身魔法!?」


 王国でも解明されていない魔法じゃないか!


「エート、エート…………コウダ!」


「………! お前…その姿は…」


 その姿は、ゴブリンと似て緑色の肌色だが、顔がゴブリンのそれではなく、人のそれになっていた。

 しかも、人の、美少女のそれだ。


「…ドウ、ダロウカ? 醜クナイダロウカ?」


「…すごいよ。どうして覚えたんだ?」


「アナタト、一緒ノ旅ニ必要ダト思ッタカラ…」


「そこまで俺と旅がしたかったのか?」


「…一目惚レ…」


 …一説によると、変身魔法で変身した姿はその魔物の心を反映しているという。

 なら、このゴブリンは…






「…よし、じゃあ行くか」


「ウン」


「…あー、そうだな。お前、名前欲しくないか?」


「クレルノカ?」


「そうだな…ギーギー、でいいか? お前が人の言葉を話せなかった時の声からとった」


「ギーギー…イイ名前ヲアリガトウゴザイマス」


 …心が、フッと軽くなった気がした。

 俺は、勇者はもう信じられない。


 けれど…











「なんでだ…何でお前が生きてやがるんだ、ソロモン!」


 …再びの会合。あいつは、相変わらずだった。


 でも、俺は違う。


 心を通じ合える、いい仲間を俺は持てた。


「お前はそこで眠っていろ。戦いの邪魔だ」


「…っ!」


「…頼むぞ、ギーギー」


「はい。主の為に!」


 ギーギーが、俺に魔法の結界を張る。

 俺の為に、何重にも張って召喚完了まで耐えさせてくれる。


「頼むぞ、ミドガルズオルム」


「了。わが主よ!」


「頼む。フェニックス」


「はい。あなたの思いに、答えてあげるわ!」


「頼む。バハムート!」


「うむ。おぬしの為に、力を貸そう!」


 みんなが、俺を信じてくれている。

 もう、信じられない仲間なんていない。


「よーし勝ったのじゃあ! ソロモンよ! 酒を、祝いにを所望するぞ儂は!」


「終わったとなったらすぐこれかバハムート! 少しは倹約しないか!」


「まぁまぁ、ミドガルズさん。この子も頑張っているのですから…」


 …みんな、いい子だ。

 変身魔法にも、それが現れている。

 みんな、可愛い良い子たちだ。


「…クッ」


「…いい仲間に恵まれなかったな。…行こうか」


「はい」


「畜生…畜生ー!」











 俺は、勇者は信じられなくなったが、魔物は、信じられるようになった。


 魔物にも大儀がある。それを知って行動すれば、信頼を得られる。


 みんなと俺は、そうやって信頼を得た。


「じゃあ、帰るか」


「「「「はーい!」」」」


 勇者なんかよりも、魔物のほうが、強いし、優しいし、信じられた。


 それが、今の俺だ。












 これが、伝説『66の魔物の主』ソロモンの始まりだ。


人気になったら連載するかも?

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