外出
目を覚ますと、知らない空が広がっていた。
こんなでだしで始まる話ってのはそうそうないだろう。
なにせ空である、空。
空なんか何処で見ても空だ。
なにいっての、って感じだけど、間違った事は言っていないはずだ。
だがそれでもあえて俺は言おう。
いや、もっと珍しい始まり方にだってできるかもしれない。
ああ、そうだ。
それならぴったりのがあるじゃないか。よしでは、
転生したら、知らない空が広がっていた。
「なんで月が五つもあるんだよ!!」
やっぱりそれは、異世界だからなのだろう。
しかし異世界か、異世界。
異世界かー。
迷子!
頭のなかの声が転生成功を告げ、そして実際に俺は転生したようなのだが、そこは何と驚く事に木の上だった。
木の上に、まるでコアラ――というよりは遊び盛りのガキみたいな感じで掴まっていたのだ。
その高さ何と、
なんと!
3メートル!!
おい、大した事ねえじゃねえかって思ったやつちょっとそこになおれ。
3メートルってな、意外と高いぞ。
社会人になってやんちゃなんてしていなかった時代が長いと、この程度でも滅茶苦茶怖いんだよ。
なんて、言ってみても誰もいなかった。
《NO》
「変なところで茶々入れるな!」
そうなのだ。
実はいるのだ。だけどそれは人じゃないから、やっぱりカウントしなくてもいい気がする。
転生して木の上にいる事に気付いたあのあと、俺はそれより下に枝が全然ないからどうしようかと迷っていたのだが、結局そんな迷いは無駄になってしまった。
多分、あの産声が悪かったのだろう。
突然大きな声を出されたら誰だってびっくりするし、
それはもちろん人じゃなくたって、そうなはずだ。
という訳で、鳥(体長3メートル)に連れられてやってまいりました。
巣っ!
しかしお約束のひなはおらず、ああ食べられる事はないのかと安心したのもつかの間、僕は動物の死体とかの山にぶち込まれたのだった。
瀕死の動物とかもいて、余りのグロさに吐くかと思った。
しかし、そうはならなかった。
その前に、そんな事をしてはいけないと思える事が起こったからだ。
俺が落ちてきたのに反応して叫び声をあげた鹿の上位互換みたいなやつ――RPGゲームだったら中盤くらいに出てきそうなモンスターのヤツ――が、一瞬でその鳥に殺されたのだ。
くちばしで殺されたのなら、まだよかった。
それでも十分怖かっただろうけど、あんなのを見てしまったら何とも言えない。
何とあの鳥は、目からビームを出したのだ。
いやごめん、冗談じゃないんだ。
いっときながら笑いそうになっちゃってる自分が怖いけど、マジで怖かったんだ。
あれはギャグ漫画のビームじゃない。シリアスのビームだ。
という訳で息をひそめていたら、その鳥は再び飛び立って行ったのだ。
以上が、今までのあらすじである。
「って、おかしいだろ! 何でこうなる!」
確かに無限の可能性を望んだりはした。
だが、だけどな。
さすがにこんな可能性は想定外だ。
何だよ、『鳥に食われかける未来』って。想定できるか。
想定できたら逆に危ない奴じゃないのか、それ。
まあという訳で、脱出大作戦といこうか。
なにが『という訳で』なのか分からないかとは言えない。
何がも何もなく、そのままだったら命の危機だからだ。
まずはプランA。
飛び降り作戦だ。さっきは3メートルで怖気づいていたが、さすがに命がかかっているので5メートル以内であれば飛ぶつもりだ。
そう思って、家を建てられそうなほど広い巣のはじっこの方に行き、下を見る。
そうすると、おおよその巣の高さは分かった。
なんと、
80メートルくらいだった!
「ふざけんな!」
本当にふざけんなだ。
まさかの20階建てビルより高いという。
どんな高い木に巣を作ってんだよ、鳥。
次に考えるのは、プランC!
因みにプランBは木をするすると、俺が華麗に下りて行くという案だったのだが、木の枝があまりに太すぎて却下になった。
そしてプランCは、異世界転生と共にゲットした俺のスキルをフル活用して行こうぜ、というものだ。
つまりは手詰まりになったから適当に考えたのだ。
いやでも、案外使えるかもしれない。
しかし、スキルの使用とかは俺は出来ないぞ?
そういうのはどうすればいいのか分からないと、そもそもどうにもならないのではないか。
いや、もしかしたらスキルっていうのは体を動かすのとかと同じように、感覚でやるものなのかもしれない。
《YES》
どうやら、本当にそうらしい。
これは参った。
だったら異世界転生特典みたいな感じでそのスキルを一瞬で使えるようにしてくれたりとか、しないだろうか?
《NO》
ダメらしい。
残念だ。
まあ、さすがにそこまでは期待していなかったら別にいいんだけど。
しかし、だとすればどうすればいいんだろう。
この声が喋る様になったりとかすればいろいろとどうにかなってくれるんだろうけど、そういう訳にはいかないだろう。
《NO》
って、喋れるの!?
今はわざといじわるして喋ってないだけ!?
《NO》
……う、嘘つきっ!
《NO》
久しぶりの完全否定だった。
しかし、だとしたらどういう事なんだろう。
たぶん、この声はウソは言わないはずだ。
というか、そう信じていないと事態が進まないから、そう信じる事にする。
という訳でやっぱり、この声は真実のはずなのだ。
ではどうにかすれば、喋るはずなのだ。
……ほっといたら喋り出すのかな?
《NO》
またも残念。
これは正解にたどり着くまでいろいろと言い続けないとダメな感じのヤツか。
《YES》
だったら、これは諦めた方がいいかもしれない。
それに、この声が自由会話が可能にななければスキルが自由に使えないという訳ではないんだろう。
たぶん。
《YES》
だそうだ。
えっとたしか、俺の持っているスキルは何だったか。
確かえっと、『可能性』と『最適化』だっけ?
《YES》
ほい、ありがとさん。
『可能性』に関しては全くもって検討が付かないけど、『最適化』に関しては何となく予想出来なくもないな。
何だろう。
敵の姿にあわせて強くなるとかそんな感じとか。
《NO》
違ったらしい。
もしもそうならあの鳥相手にも戦えるんじゃないかと思ったけど、それは無理か。
じゃあもういっその事新しいスキルでも習得できないものだろうか。そうすれば戦闘用のスキル――いや、もしかしたら逃走用のスキルだって手に入るかもしれない!
戦闘用のスキルなんて使って負けたら洒落にならないけど、
逃走用のスキルならばその心配が減るはずだ。
まあそれもこれもスキルを手に入れたれたら、って話だし。
無理なんだけど。
《NO》
って、あれ?
新しいスキルの取得、できるらしい。
えーっと、それはどういうことだろう。
ううむ。
こういうときは人間時代の漫画とかの知識とかって参考にしていいモノなんだろうか。
まあよく分からないけど、漫画なんかだと繰り返し身につく様に何かをやっていたらそれがスキル化していた様な……。
という事は、繰り返し戦っていたら『戦闘』スキルが手に入るとか、そんな感じなのだろうか?
《NO》
違うらしい。
まあ、もしそうだったらスキル入手は無理そうだったから、それは助かる情報だ。
しかし、そうでないならどういう仕組みでスキルを入手するんだろうか。
いやもしかしたら……、『可能性』のスキルっていうのが……
「って、うげ」
そんな事を考えていたら、鳥が帰ってきた。
今すぐ寝るふりをしなけなければと思ったが、もう遅かったようだ。
鳥が臨戦態勢に入る。
どうやら俺は、粛清対象になってしまったらしい。
そう思った次の瞬間、俺は頭をぶち抜かれた。