表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/45

夢っ!?

 目を開けると、何も見えなかった。


 ……ん?


 いや、おかしいおかしい。何かがおかしい。

 そもそも俺は死んだんじゃなかっただろうか、前回。


 という事はここは天国か。

 なるほどな~るほど。


 よし、おかしいだろう。





 冗談はそろそろやめにして、そろそろ真面目に考えようか。

 ええっと、何がどうなったんだろうっけか。


 確か俺は昨日、モデル界のトップに立つ彼女とデートをしたのだが、


『ごめん!

 あなたがあまりにも美しすぎて動機が止まらないの!

 これ以上私があなたと一緒にいたら心臓が破裂して死んじゃうわ!

 ちょっとだけ、ちょっとだけ距離を置かせて!』


 と、泣くなく言われたので彼女とは距離を置く事になったんだったよな。

 うん。

 何の間違いもない。

 そしてその後は彼女の幸福を祈ってワインを飲んでいたらついつい飲み過ぎて道端で倒れてしまったのだ。

 飲んだのは居酒屋のビールだったような気もするが、ああ、そんなのは気のせいだ。

 気のせいに決まっている。

 そしてそのあと、確か、女の子に話しかけられたのだ。

 そして……、



――貴様には転生してもらう。


――本来転生の成功確率は0.00001%――つまりは一千分の一の確率なのだが、この私が見定めた人間を殺して回っておるでな。成功確率はそこそこになるはずじゃ。


――転生失敗の場合は死ぬだけだが――そして転生には成功しても我の元には訪れられなかったり、雑魚モンスターになってしまう可能性もあるが、その際は私の敵にだけならない様に気を付けろ。

 そうすれば殺しはしない。

 どこかで生きていける可能性だってある。



 そうして俺は彼女に、銃殺されたのだった。


 いや、待て待て待て。

 さすがにありえないだろう。夢か? そうか、夢か?

 そんなのは俺の彼女がモデルだってことくらいありえないだろう。

 だとしたらそれはみんな、夢、なのだろうか。

 ああ、なるほど。夢だったのか。

 そう考えるといろいろと納得がいくのだ。


 全裸マントの帯銃入れ墨幼女なんて、そんなえげつない存在がいるわけはない。

 そう、そうすれば付き合ってから一週間もない彼女からふられた事にも説明が付くのだ……!


 全ては、夢だったのだ!

《NO》


 ずっこけるかと思った。

 そこでやっと気が付いたのだが、ここには地面が無いように感じられる。

 いや、もしかしたら地面を感じられない――地面を感じる神経が切断されてしまっているという可能性だって否めない。

 そういうふうな障害だと考えれば、目が見えないも頷けるのだ。

 まあ、納得はできても飲み込めるような事実ではないのだが。


 しかしまあ、仕方ない。この際覚えている事が全て事実だというのはもう認めてしまおう。

 きっと893の娘さんとかが妄想癖だったとか、そういうオチなのだろう。

 ああ、俺は天才なのかもしれない。もう真実にたどり着いてしまうなんて……!


 つまり俺は今、病院のベッドの上で生死の狭間を彷徨っていたりするんだ!

《NO》


 違うそうです。

 じゃあ何だ、アレか。ここは地獄か? 俺がイケメン過ぎたという罪で俺は地獄に落とされたのか!?


《NO》


 ……それも違うのか。

 というか、そもそもこの声は何なのだろう。

 どこかあの女の――あの全裸幼女の声に近い様な気がするが、それは何故だろう。

 頭のなかに直接響く様な感じがするから、その共通点のせいだろうか。


 いや、頭のなかに直接響く……?

 ああ、なるほど。

 つまりこの声は、幻聴か!


《NO》


 ……もう、否定されつくしだった。

 なんかもうこれだけ否定されていると人間性まで否定されているような気分になってくる。

 むしろ何故我慢できているのかが疑問なくらいだ。

 日本語じゃないからだろうか。英語だから我慢できているのだろうか。


《NO》


 ……はい、だそうです。

 日本語でも案外俺は我慢できていたそうです。はいはい、そうですか。

 センチメンタルになる事すら許されないんですかこのヤロー。


 と、謎の八つ当たりをし始めそうになっていたが、ひとつの疑問が浮かんできていた。

 もしやこの謎の声は、アレなんじゃないだろうか。


 『NO』としか言えないのでは!

《NO》


 結局答えは違う、だそうだった。

 そのままの意味だったらそれ以外も喋れるという事なんだろうけど、そういいつつも結局『NO』しか言っていない。

 それとも何だろうか。

 俺が『NO』としか答えようのないことばかり言っていたせいなのだろうか。


《YES》


 ここでイエスが来るのかよ!

 この野郎、全力で俺の人格を否定しにかかってやがるぞ!

《NO》


 ……どうやら違うそうです。

 なんだかもう抵抗する力もなくなって来てきたし、それにこれ以上この事を考えていたら


『返答に俺を否定する意思がないのに俺が人格を否定されているように感じるのは俺自身に自信がないから』


 という結論に至りかねn

《YES》


 …………。

 …………………………。


 もの事は前向きに考えるべきであろう。

 とにかく受け答えをしてくれる相手がいるという事は、きっといろいろ聞いていけばいろんな事が分かるはずだ。

 そう、前向きに、前向きに、

 ポジティブシンキングである。

 決して自己否定になどは陥らない様に……自己否定か……。


 いや、考えちゃダメなんでした。

 とにかく、いろいろな事を聞いてみよう。

 たとえば、そうだな。


 ここはどこだ?


 …………。

 …………………………。

 無回答でした。

 だったら今度は、別の事を聞いてみよう。


 あの女の子は誰ですか?


 …………。

 …………………………。

 やっぱり無回答でした。

 もしかして、『YES・NO』以外の返答が出来ないんだろうか。


《YES》


 あ、はい。ありがとうございまーす。

 ううむ。

 だという事はつまり、ろくな事は聞き出せないということか。

 では、ヒマつぶしの相手ぐらいにしかならないではないか!


 まあ、一人でこんなところにいるよりは随分とましだろうか。

 いや、実質一人ではあるのか。


 まあ生活していけばいろんな事が分かっていくだろう。





 なんも分かんねえよーーーー!!!


 叫んだって、誰も答えてはくれなかった。

 そもそも、叫ぶ事すら出来てはいなかった。


 どのくらいの時間が経ったかは分からないけれど、随分と時間が経ったと思う。

 ああもう、ヒマだ。

 眠るって事が可能なのがせめてもの救いなのか。これで眠る事すら不可能だったら俺は退屈で死んでいただろう。

 なあ、そうだろう?


《NO》


 ……残念。

 俺はどうやら、退屈では死なないらしい。


 まあ、果報は寝て待てとも言う。

 精々待ってみよう。

 そのうち何かが――いい事かは分からないけど――起こってくれるかもしれないのだから。





 あ――――。

 あ―――――――――――――――――。

 あ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。


 いつぶりに起きただろうか。

 ヒマだ。

 ヒマというか、空虚だ。


 辛い。

 本当に、辛い。

 もう人格破綻者でも構わないから、人に会いたい。

 肉声を聞きたい。

 光を浴びたい。

 地面を感じたい。

 騒音に浸りたい。

 温かさを感じたい。

 餃子を食べたい。

 雨に濡らされたい。

 誰かと喋りたい。


 ああ、もう何もかもが、欲しくなる。

 ああ、ああ、ああ、あああもう!

 クソッ!

 何でこんなふうになった。

 俺は、俺は違うだろう。


 俺はこんなのじゃないだろう。

 俺は特別にも普通にもなり切れない、特別でもないくせに平凡じゃない、そんなヤツなんじゃなかったのか。

 なのになんで、こんな目にあわなきゃいけないんだ。

 なんでだよ。

 平凡がいいなんて言ったからなのか。

 だからなのか。

 だったら、だったらもういいよ。

 願うよ。

 俺は願うよ。


 俺は、もっと特別がよかった。

 もっといろんなものになれる未来が欲しかった。

 何にでもなれるかもしれないっていう少年の時代の幻想が本当だったみたいな、そんな人生が良かった。

 人生には無限の可能性が広がっているっていう幻想が本当な、そんな、そんな人生をつかみたかった。


 俺は、

 俺は……、


『何にでもなれる俺になりたい!』


《願いを受諾しました。スキル『可能性(仮)』を生成します。成功しました》


 俺の頭のなかで、声が響く。

 まさか、なんで。

 『YES・NO』以外は喋れないんだったんじゃあ……、いや待て、違う。

 『YES・NO』以外の返答が出来ないって、いうことはまさか。『返答』じゃなかったら、

自分からしゃべるぶんには自由だったって事か!?


 俺の事は無視して、声は続く。


《スキル取得により、転生が開始されます。追加要望があるならば、受諾します》


 何だ、これ?

 いや、スキル取得がどうとかって事はまさか、願ったらそれでゲームみたいな能力をくれるって事か!?

 じゃあ強くなりたいって願っといた方がいいのか!?

 早死にはしたくねえぞ!?


『じゃあ、強くなりたい!』


《受諾しました。2年3カ月2日16時間38分25秒の間貯蓄し続けた『次元の狭間』の魔力を戦闘に特化した形で整理します。肉体の不在により失敗しました。

 代替としてスキル『最適化(仮)』を生成します。成功しました》


 それ以上しゃべる暇はなかった。

 その瞬間、一気に俺に感覚が押し寄せてくる。


《転生が開始されました》


 視覚が、世界の光がまぶしい。

 触角が、全身に伝わる樹木の感触が。

 聴覚が、鳥や動物たちの鳴き声が。

 味覚が、つばが苦い。

 嗅覚が、森の臭いをかぎ取る。


 本当に、本当に久しぶりの……!

 全身全霊でこの世界に存在しているという感覚だった!


《転生が成功しました。種族名『不明』》


「あ、ああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 多分それは、産声だったと思う。





プロファイル

 名前・(あずま)(あずさ)

 種族・不明

 称号・なし

 等級・下級種(リトル)

 加護・名称不定意思

 魔法・なし

 能力・可能性(仮)

    最適化(仮)

魔力量・58,000





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ